警察官に物を投げつけたら公務執行妨害? 示談との関係や逮捕後の流れは?

2018年11月20日
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警察官に物を投げつけたら公務執行妨害? 示談との関係や逮捕後の流れは?

平成26年1月、埼玉県警は、川越市の近隣である埼玉県新座市在住の男と志木市在住の男を、公務執行妨害と殺人未遂の疑いで逮捕しています。ふたりの男が、河川敷でバッグの物色をしていた際、職務質問をしようとした私服警察官を土手から突き落とし、さらに、殴る蹴るの暴行を加えて意識をもうろうとさせた上で川に落として殺害しようとした疑いをもたれました。

公務執行妨害は、公務員の職務を妨害した際に問われる罪です。公務の執行を妨害するとはどのようなことなのか、身体に接触していなくても罪に問われるのか、疑問も多いはずです。

もし、あなたの息子が、駐車違反を取り締まろうとした警察官に空き缶を投げつけて逃走したとしたら……。逮捕され、前科がついてしまう可能性があるかもしれないと、心配になることでしょう。

今回は、息子が警察官に物を投げつけたケースを例に、公務執行妨害罪の全体像と逮捕後の流れを、川越オフィスの弁護士が解説します。

1、物を投げつけるだけでも公務執行妨害?

警察官に対して物を投げつけた場合、相手の身体に当たっていなかったとしても、公務執行妨害で逮捕される可能性があります。

警察官に物を投げつける行為が、なぜ犯罪に当たるのでしょうか。冒頭の、実際に逮捕された事例のような、殴る蹴るのケースでは理解できても、なかなか考えづらいかもしれません。まずは、公務執行妨害とはどのような罪なのかを知っておきましょう。

  1. (1)暴行の意味

    公務執行妨害罪は、刑法第95条第1項で規定されているとおり「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加え」た場合に成立し得る犯罪です。

    まず、「暴行」の意味を確認してみましょう。一般的に、暴行とは、相手の身体に直接触れる、殴る・蹴るなどの暴力を加える行為だとイメージされることが多いものです。しかし、公務執行妨害罪においては、公務員の身体に直接加えられる行為だけでなく、間接的に向けられたものでも、公務員に物理的・心理的に影響を及ぼす行為であれば、「暴行」に当たることがあります。

  2. (2)物を投げつけるだけでなぜ妨害にあたるのか

    物を投げつけたのが1回だけで、かつ、当たっていない場合は、「公務を妨害している」とはいえないのではと思われる方がいるかもしれません。

    しかし、公務員の職務の執行を妨げるに足りる程度の暴行であれば、公務執行妨害罪における「暴行」に当たると解釈されているため、たとえ、警察官に向かって1回物を投げつけただけであっても、その警察官の職務の執行を妨げるに足りると判断されれば、公務執行妨害罪が成立し得るのです。また、実際に、職務の執行を妨害したという結果が発生しなかった場合でも、公務執行妨害罪が成立する可能性があります。たとえば、路上で停車中のパトカーを蹴る、警察官の帽子をはぎとりその場に捨てたなどの行為によって逮捕されてしまうこともありえるのです。

    したがって、駐車違反を取り締まろうとした警察官に空き缶を投げつけた場合も、公務執行妨害として逮捕されてしまう可能性があります。

2、公務執行妨害罪と示談の関係

もしあなたの息子が公務執行妨害で逮捕されてしまったら、将来への影響を気にすることでしょう。詳細は後述しますが、「逮捕」されてしまうと、たとえ最終的に不起訴処分に終わるとしても、最大23日間も身柄の拘束を受ける可能性があります。その間、会社や学校へ通うことはできないということです。ましてや、起訴されて前科がついてしまえば、その影響は計り知れません。

そこで、まずは、息子の身柄をいち早く釈放してもらうと同時に、前科がつかないように、何らかの対策を行う必要があります。被害者が存在する刑事事件においては、一般的には示談を検討するものですが、公務執行妨害事件についてはどうすればよいのでしょうか。

公務執行妨害と示談の関係について解説します。

  1. (1)被害者は誰?

    一般的に「公務執行妨害」といわれると、警察官への職務妨害をイメージする方が多い傾向があるようです。しかし、刑法第7条第1項に定義されているとおり、刑法上の「公務員」とは、「法令により公務に従事する職員」をいい、国や地方公共団体に勤務する職員を始め、職務の性質上公務員とみなされる者(みなし公務員)、国会議員や地方議員等も、ここでいう公務員に含まれます。

    したがって、国や地方自治体などから委託されている業務を妨害しても、公務執行妨害の罪に問われ得ることになります。

    しかし、公務執行妨害罪が規定されているのは、暴行や脅迫を受ける公務員個人を保護するためではなく、公務そのものを保護するためです。

    そのため、公務執行妨害事件においては、明確な被害者がいる事件と異なり、被害者との示談というものが観念しにくいのです。

  2. (2)示談が可能なケース

    公務執行妨害には、ひとつの行為でふたつ以上の犯罪が同時に成立し得るという特徴があります。たとえば、冒頭で紹介した事件では、公務執行妨害と殺人未遂の疑いで逮捕されています。

    また、駐車違反の取り締まりをしている警官に対して空き缶を投げつけた場合、公務執行妨害罪が成立する可能性がありますが、同時に、空き缶が当たって警察官がケガをすれば傷害罪が、警察官のメガネが壊れれば器物損壊罪が、公務執行妨害罪に加えて成立する可能性があります。

    公務執行妨害罪とは異なり、傷害罪や器物損壊罪については被害者が個人になります。したがって、理屈としては被害者との示談が可能になります。相手次第では示談を受け入れてくれる場合もあるでしょう。

    しかし、実際に、公務員が示談を受け入れてくれるのか、という問題があります。公務員には刑事訴訟法で定められた告発義務が課せられているため、示談金を受け取ることで犯罪を見逃すということはできません。特に、相手が警察官の場合には、示談は難しいと覚悟しておく必要があるでしょう。

3、公務執行妨害罪で逮捕された後はどうなるのか

親としては、逮捕された息子がこれからどのように罪を裁かれていくのかが当然気になるところだと思います。本項では、逮捕後の手続の流れや罰則について解説します。

  1. (1)刑事事件の手続きについて

    公務執行妨害は刑事事件です。よって、逮捕後は、刑事訴訟法に定められている手順に沿って、刑事手続が進んでいくことになります。 ごく簡単に刑事手続の流れを説明すると、次のようになります。

    • 逮捕後48時間以内:警察の捜査、送検
    • 送検後24時間以内:勾留請求
    • 勾留決定後:原則10日間、延長でさらに最長10日間の身柄拘束
    • 勾留期間満了まで:起訴または釈放

    いずれかの段階で身柄を拘束する必要がないと判断されれば、身柄が釈放されます。ただし、身柄が釈放されても必ずしも無罪放免になるとは限らず、「在宅事件扱い」として捜査が進むこともあります。その場合、捜査機関から呼び出しがあれば、応じる必要があります。

  2. (2)罰則について

    公務執行妨害罪で起訴され、有罪となった場合、法定刑は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」です。

    逮捕されれば、懲役刑となり刑務所に収監される可能性もあると考えておきましょう。ただし、量刑の目安は、事件の性質や前科の有無などによって変わります。深く反省をしている、更生に向けた努力をしているなどの情状が認められ、軽微な罰金刑で済むことがある一方で、行為が悪質な場合等には、初犯でも懲役刑になる可能性があります。

    なお、冒頭でご紹介した事件のように、公務執行妨害罪と殺人未遂罪など、同時に複数の罪を犯している場合は、法定刑の重い罰則が適用されます。

  3. (3)親として反省を促すことが大切

    親として、示談ができなくても、息子のためにできることがあります。それは、弁護士に弁護を依頼することと、本人の反省を促すことです。

    警察官への公務執行妨害は、理屈上は、被疑者が身柄拘束を受ける期間を長くしにくいという特徴があるといえます。その理由は、加害した相手である警察官に接触する、脅すなどして証拠隠滅をはかる可能性が非常に低いことと、冒頭の事例のようなケースでは、親の存在によって身元が明らかになりますので、逃亡の可能性も否定され易いことです。したがって、弁護士に依頼すれば、弁護士がこれらの事情を裁判官や検察官に正確に伝えることで、早期の釈放につながり易くなります。

    しかし、いったん逮捕されてしまえば、少なくともある程度の時間は身柄の拘束が続くことになり、逮捕後72時間は、親であっても本人と面会することができないことがほとんどです。電話などで話すことも同様です。このとき唯一面会できるのが、法のプロフェッショナルである弁護士です。

    弁護士は、もっとも心細い時期を接見によりサポートするとともに、状況に合わせて今後の対策をアドバイスします。もし、罪を認めているときは、早い段階で深く反省するよう促すとともに、早期釈放や不起訴を目指して弁護活動を行います。もし、人違いなどで無実の罪であるときは、嫌疑を晴らすための活動を行うことになります。

    その結果、比較的早く身柄を釈放される可能性が高まるのです。

4、まとめ

今回は、あなたの息子が警察官に物を投げつけて逮捕されたケースを想定し、公務執行妨害罪の特徴や示談との関係、逮捕後の流れを解説しました。

親としてできるのは、弁護士を依頼し、弁護士を通じて息子に反省を促すことです。反省の色がしっかりとみえれば、早期の身柄釈放や不起訴につながり易くなります。

また、弁護士に依頼をすれば、弁護士が、刑事手続の流れや処分の軽重に影響するポイントを踏まえて、早期釈放・不起訴に向けた弁護活動をするとともに、精神的にも息子の支えとなります。

公務執行妨害罪についてお困りのことがあれば、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスまでご相談ください。刑事事件の経験が豊富な弁護士が対応いたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています