残業代にも最低賃金はあるのか? 割増賃金の基本ルールを解説
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令和4年度に埼玉県内の労働基準監督署が監督指導を行った718事業場のうち、違法な時間外労働があったものは343事業場でした。
会社から支払われている残業代が少なくて悩まれている方の中には、「残業したのにこんなに給料が低いなんて、最低賃金にも違反しているのではないか?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。実際には、法律上は残業代について、最低賃金違反が問題となることは少ないですが、残業時間が長いのに給料が低い場合には、未払い残業代が発生している可能性があります。
未払い残業代の有無や金額を確認したい方は、お早めに弁護士へご相談ください。本コラムでは、残業代と最低賃金の関係性、残業代に関する労働基準法のルールや計算方法に計算例などを、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士が解説します。


1、残業代が最低賃金以下になることはあるのか?
会社から支給される残業代が少ない場合には、「最低賃金法に違反しているのではないか?と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、基本的には、残業代について、最低賃金に違反するかを独立に検討することはないと思われます。それよりも「未払い残業代を請求できるか」という点を検討しましょう。
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(1)最低賃金の計算方法
最低賃金額は、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」のうちいずれか高い方となります。
① 地域別最低賃金
都道府県ごとに定められている最低賃金。
② 特定最低賃金
都道府県と業種ごとに定められている最低賃金。
たとえば埼玉県の地域別最低賃金は、令和5年10月1日以降は「1028円」となっています。
埼玉県において、地域別最低賃金を上回る特定最低賃金が定められているのは、以下の業種です(令和5年12月1日以降)。業種 特定最低賃金 非鉄金属製造業 1048円 電子部品・デバイス・電子回路、電気機械器具、情報通信機械器具製造業 1055円 輸送用機械器具製造業 1055円 光学機械器具・レンズ、時計・同部分品製造業 1064円 自動車小売業 1060円 ※最新情報は、さいたま市公式ホームページをご確認ください。
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(2)残業代については、独立して最低賃金を検討する必要はない
最低賃金は、基本的には毎月支払われる賃金(基本給など)について問題となります。
残業代も最低賃金による規制は及びますが、残業代については通常、独立して最低賃金に違反するかどうかを検討する必要はありません。
残業代の金額は、通常の賃金を上回る水準に設定されているケースが大半であり、その場合は通常の賃金について最低賃金違反を検討すれば足りるためです。 -
(3)残業代が少ない場合は、未払い残業代請求が問題となる
残業代の支給額が少ない場合には、最低賃金違反ではなく、未払い残業代請求の可否を検討しましょう。
残業時間や残業の種類に応じて計算される正規の残業代に比べて、実際に支給されている残業代が少ない場合には、会社に対して未払い残業代を請求できる可能性があります。
未払い残業代の有無や金額を確認したい方は、弁護士にご相談ください。
2、正しく残業代が支払われていない場合は弁護士に相談を
会社が残業代を正しく支払わない場合は、未払い残業代請求について弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に未払い残業代請求を相談することの主なメリットは、以下のとおりです。
労働基準法のルールに従い、正しく残業代の金額を計算できます。
② 残業の証拠収集についてアドバイスを受けられる
勤怠管理システムやタイムカードなど、客観的な証拠に乏しいケースでも、さまざまな観点から残業の証拠収集についてアドバイスを受けられます。
③ 会社との交渉や労働審判や訴訟の対応を一任できる
実際に未払い残業代を請求するに当たり、会社との交渉や裁判所に対する労働審判の申し立てや訴訟の提起など、必要な対応を弁護士に一任できるため、労力が大幅に軽減されます。
④ 法的根拠に基づく主張により、適正な残業代を回収できる可能性が高まる
労働基準法や残業の証拠に基づき、労働者側の正当性を裏付ける法的根拠を組み立てることで、適正な残業代を回収できる可能性が高まります。
会社から支払われている残業代が少ないと感じている方は、お早めに弁護士へご相談ください。
お問い合わせください。
3、残業代に関する労働基準法のルール
労働基準法では、会社に対して、残業の種類に応じた割増率を適用した残業代の支払いを義務付けています(労働基準法第37条)。
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(1)残業の種類|法定内残業・時間外労働・休日労働・深夜労働
残業の種類には、「法内残業」「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」があります。
① 法内残業
「所定労働時間」を超え、「法定労働時間」を超えない部分の労働時間
所定労働時間:労働契約または就業規則で定められた労働時間
法定労働時間:原則として1日8時間、1週40時間
② 時間外労働(法外残業)
法定労働時間を超える部分の労働時間
③ 休日労働
「法定休日」における労働時間
法定休日:労働基準法第35条によって付与が義務付けられた休日。原則として1週間のうち1日のみ。
④ 深夜労働
午後10時から午前5時までの労働時間 -
(2)各残業の割増賃金率
従業員の残業に対しては、その種類に応じて、以下のような残業代の支払いが会社に対して義務付けられています。
法内残業 通常の賃金 時間外労働 通常の賃金×125%
※月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×150%休日労働 通常の賃金×135% 深夜労働 通常の賃金×125% 時間外労働かつ深夜労働 通常の賃金×150%
※月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×175%休日労働かつ深夜労働 通常の賃金×160%
4、残業代の計算方法・計算例
以下では、残業代を計算する手順や、計算式を紹介します。
計算された残業代の額に比べて実際に支払われている残業代の金額が少なかった場合には、未払い残業代を請求することができる可能性があります。
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(1)1時間当たりの基礎賃金を計算する
「基礎賃金」とは、残業代を計算する際に基準となる賃金額です。
1時間当たりの基礎賃金に残業時間をかければ、残業代の金額を求めることができます。
1時間当たりの基礎賃金の計算式は以下のとおりです。1時間当たりの基礎賃金=1か月の総賃金(以下の手当を除く)÷月平均所定労働時間
<総賃金から除外される手当>- 時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当
- 家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
- 通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
<月平均所定労働時間の求め方>
月平均所定労働時間=年間所定労働時間÷12か月
※所定労働時間:労働契約や就業規則で定められた労働時間
(例)
1か月間に上記の各手当を除いて35万円の賃金が支給され、月平均所定労働時間が175時間の場合
→1時間当たりの基礎賃金は2000円(=35万円÷175時間) -
(2)残業時間を集計する
「法内残業」「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」に区別して、残業時間を集計しましょう。
勤怠管理システムなどのデータを取得すれば、残業時間をスムーズに把握できます。
残業に関するデータが記録されていない場合には、社内システムへのアクセス履歴やオフィスの入退館履歴、交通系ICカードの乗車履歴などを参照して、できる限り残業の証拠を集めましょう。 -
(3)残業代を計算する
最終的な残業代の金額は、以下の式によって計算します。
残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間数
上記の式によって計算された残業代の額に、実際に支給された残業代の額が不足している場合は、未払い残業代を請求できます。
5、まとめ
残業代については、最低賃金が独立して問題となることは基本的にありません。
しかし、残業時間等に応じた適正な残業代が支払われていない場合には、会社に対して未払い残業代を請求ができる可能性があります。
未払い残業代の請求は、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士は、正しい残業代計算や証拠収集のアドバイスを通じて、適正額の残業代を回収するためにサポートします。
会社との交渉や労働審判・訴訟の対応など、未払い残業代請求に必要な手続きについても、一括して弁護士に依頼することができます。
ベリーベスト法律事務所 川越オフィスは、未払い残業代請求に関する労働者のご相談を随時受け付けております。
会社から十分な残業代が支払われておらず、未払い残業代請求ができるのかどうか知りたい方は、まずはベリーベスト法律事務所 川越オフィスにご連絡ください。
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