私立校教員の残業代の考え方とは? 請求方法や給特法の影響も解説!
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埼玉県内には、およそ643校もの私立学校があります(令和6年4月1日現在)。
教職員における長時間労働の原因ともいわれている「給特法」が改正され、令和2年から3年にかけて順次施行されました。ただし、給特法は、公立学校の教員を対象とする法律のため、私立高の教員には適用されません。しかし、なかには私立校の教員についても、公立校の教員と同じような給与の形態がとられているケースがあります。
本コラムでは、私立校の教員の方にむけて「残業代の考え方や請求方法」について、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士が解説していきます。
1、給特法と私立校教員
まずは、「給特法」がどのような法律なのか、私立校教員との関係性ついて解説します。
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(1)給特法とは
「給特法」の正式名称は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」といいます。
給特法の対象になるのは、正式名称通り公立の学校に勤める教育職員です。
公立学校の教育職員は公務員ではありますが、その職務と勤務形態は、夏休みや部活動の対応があるなど、他の公務員と比べると特殊であるといえます。
そのため、給与やそのほかの勤務条件について、特例を定めた法律が給特法です(給特法第1条)。
たとえば、給特法では、給料月額の4%分を「教職調整額」として支給する代わりに、時間外勤務手当と休日勤務手当については支給しないとされています。
教員の授業以外の負担や長時間労働が社会問題になっている現在では、給特法が時代にそぐわないという声も上がっていました。
この声を受けて、給特法の一部を改正する改正給特法が成立し、令和2年と令和3年に順次施行されています。 -
(2)改正給特法の内容
改正給特法は、すでに施行されている「業務量の適切な管理等に関する指針の策定」と令和3年4月1日にあたらしく施行された「一年単位の変形労働時間制の適用(休日のまとめ取り等)」の2つを大きな柱としています。
後者については、「地方公共団体の判断で公立学校の教師が変形時間労働制のもとで働くことが可能になる」という大きな変化がありました。これにより、「夏休み中に休日をまとめて取得することが可能になる」といったメリットがもたらされたのです。 -
(3)私立校の教員に適用される法律は労働基準法
前述の通り、「給特法」の対象は公立学校の教員です。
したがって、私立校の教員には適用されません。
しかしながら、「給特法」の影響を受けて、時間外勤務手当が支払われていなかったり、一定の時間外勤務手当などをあらかじめ給与に含めたりする、いわゆる「みなし残業代」という制度を採用している場合があります。
みなし残業代制度を採用していること自体には法的な問題はありませんが、給特法を引き合いに出して本来なら支払わなければならないはずの残業代を支払っていない場合には、違法となります。私立校の教員には、時間外勤務手当や休日勤務手当についても労働基準法が適用されるためです。
したがって、私立校の教員の場合、残業をすれば、その分の残業代を請求できる可能性があります。
2、労働基準法にもとづく「残業」の考え方
私立学校の教員に適用される「労働基準法」では、残業について次のような考え方をします。
労働基準法第32条では、法定労働時間である「1日8時間・週40時間」を超えて労働させてはならないと規定されています。残業とは、一般に法定労働時間を超えて労働することを指します。
法定労働時間を超えた労働があれば、使用者は労働者に対して割増賃金を支払わなければなりません。
また、職場で定められている労働時間を「所定労働時間」といい、学校は法定労働時間の範囲内で自由に設定することができます。
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(1)残業時間の定義
裁判所は、過去の裁判において、労働基準法の労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間をいう」と定義しています。
したがって、法定労働時間を超えて使用者の指揮命令下におかれていた時間は、「残業時間」と考えることができます。
部活動やクラブの顧問になっていたり、課外活動に引率したりして、休日出勤や残業をしたにもかかわらず、少額の手当のみが支払われている場合には、残業代を請求できる可能性があります。
法定労働時間を超えて労働していながら、残業代が支払われないことは、労働基準法違法となります。
したがって、教員であっても、残業代の支払いを求めることはできるのです。 -
(2)残業には三六協定が必要
労働基準法では、前述の第32条において、法定労働時間を超えて労働させてはならないと規定しています。
一方で第36条には、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては、労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができると定めています(いわゆる「三六協定」。)。
もし、私立校の教員の労働組合等と学校側で三六協定が締結されていなかった場合、原則として、残業をさせることはできません。
また、三六協定を締結している場合でも、協定で定めた残業時間の上限を超える残業をさせることも原則としてできません。
このような違法な状態が私立校で存在している場合には、労働基準監督署の指導の対象になるため、三六協定の有無や内容についても確認するとよいでしょう。
お問い合わせください。
3、私立校の教員が直面する「みなし残業代」の問題とは
私立校では「みなし残業代」制度がとられ、残業代が適正に支払われていないケースも多いとされています。
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(1)「みなし残業代」とは
みなし残業代とは、「月給○○円(月30時間分の固定残業代5万円を含む)」などと固定給に一定時間分の残業代を含むものとして扱ったりする場合のことを指します。「固定残業代」ともいいます。
みなし残業代制度自体は違法ではありません。
しかし、固定給に含まれている一定時間を超える残業をしても、超過分が支払われていない場合には、その超過分について、時間外手当を請求できる可能性があります。 -
(2)「みなし残業代」が支払われていても残業代を請求できる可能性
もしも、学校側から「残業が多い月と少ない月があり、平均すると時間内に収まるから残業代は発生しない」と主張された場合、それは間違いなので受け入れてはいけません。
「みなし残業代」制度では、固定給に含まれている残業時間よりも多く残業すれば、その分の残業代を請求することができます。
そして、固定給に含まれている残業時間より残業が少なかった場合にも、固定給通り支払わなければいけません。
固定給25万円に月30時間分の残業代が含まれているケースで考えてみましょう。
たとえば、4月に45時間、5月に15時間の残業をしたとします。この場合、4月には固定給に加えて30時間を超える部分(15時間分)の残業代を請求でき、5月には固定給の25万円をそのままもらえる、ということになります。
4、私立の教員が残業代請求する方法とは?
未払いの残業代が存在すると思われる場合、主に次のような方法で残業代を請求することが可能です。
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(1)直接学校側に請求する
まずは、学校側の担当者に聞いてみましょう。ただの勘違いや計算違いだった場合、問題なく支払ってもらえるはずです。
しかし、再計算や支払いを拒む場合は、適切な計算をしたうえで、正式に請求していくことになります。
この場合、あとで「請求した」「請求されていない」といった食い違いが起こらないためにも、配達証明記録をつけた内容証明郵便を使い、請求するようにしましょう。 -
(2)労働基準監督署に申告する
残業代の未払いは労働基準法に違反します。
そのため、労働基準監督署(労基署)に申告をすることで、労働基準監督署から学校側に是正勧告を行ってもらうえる可能性があります。
ただし、労基署は個人の未払い残業代の代理請求を行うことはできないので注意しましょう。 -
(3)弁護士に相談する
学校現場では、出退勤時刻を示すタイムカードなどが導入されていない場合もあり、労務管理に問題が見られることも少なくありません。
したがって、ご自身だけでは、残業時間の算出や残業を示す証拠の収集が難しい可能性があります。
弁護士に相談することで、証拠を収集する方法についてアドバイスを得られ、残業時間や残業代の算出も任せられます。
また、弁護士は、依頼者の代理人として相談者の代わりに学校側と交渉することができます。そして、もしも交渉がまとまらず、労働審判や裁判を行うことになっても、適切な主張や証拠を裁判所に提出するなど最善の結果が得られるように弁護活動を行います。
5、まとめ
私立の学校の教員であれば、給特法の対象にはならず労働基準法が適用されます。
そのため、時間外労働があれば、学校側は教員にその分の残業代を支払わなければなりません。
しかし、実際にご自身だけで残業代を請求することは、証拠や立証が困難でハードルが高い場合があります。
不安のある方は、まずは弁護士にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士は、私立校の教員を含め残業代の未払いでお困りの方を全力でサポートします。ぜひ、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています