未払い残業代請求に必要な証拠とは? サービス業でも請求可能に!
- 残業代請求
- 残業代請求
- 証拠

川越市が令和4年3月に公表した労働基本調査によると、事業所の業種分類において、いわゆるサービス業全体(飲食、生活関連、娯楽、宿泊、学術研究、専門・技術、協同組合など複合サービス、その他)の割合が22.7%でトップとなっており、サービス業の占める割合が大きいことがわかります。(「医療、福祉」(19.4%)、「卸売業、小売業」(14.4%)、「製造業」(14.1%)が続きます)
サービス業は時間管理が難しく、サービス残業が発生しやすい業種です。
本記事では、支払われるべき残業代が支払われていない場合、どのように対処すべきかについて、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士が解説します。


1、残業代請求とは
残業代は、会社のために働いた対価として、会社から正当に支払われるべきものであり、労働基準法で定められた権利です。
労働基準法では、会社は原則として、「1日8時間、1週間で40時間」(法定労働時間)を超えて従業員を働かせてはいけないとし、会社が従業員をこれ以上働かせた場合には、時間外労働として、残業代を支払う必要があります。
時間外労働における残業代に加え、深夜労働、休日労働などにおける賃金は、通常の賃金よりも割り増しとなります。
たとえ1日あたりの残業代は少なくても、1か月や1年単位では多額になることがあります。
また、未払い残業代自体はそれほど多額でなくても、裁判では、未払い残業代と同額の付加金というものを合わせて請求できる可能性があります。
-
(1)残業代請求の時効は過去3年分まで
労働基準法により、未払い残業代の請求は過去3年分までしかできません(労働基準法第115条、143条3項)。
現在の法律の適用を受ける賃金は、2020年4月1日以降に発生したものです。したがって、現在まで長期にわたって残業代が支払われていないという方は、遡って3年分の残業代を請求することができます。
このように残業代請求には時効があることから、未払いが長く続いている場合は一刻も早く手続きを進めることが必要です。また、残業代請求をする際には、郵便局が内容を証明してくれる内容証明郵便を利用することがおすすめです。
2、こんな場合は残業代請求できる?
残業代を請求できるケース、できないケースについて解説します。
-
(1)サービス残業が当たり前になっている場合
次のような状況により、残業代が支払われない状況が当たり前になっているとしても、それが違法状態であることに変わりありません。
- 残業代は払えない旨は雇い入れのときに説明した
- 定時を過ぎるとタイムカードを切ってから仕事をすることになっている
- サービス技術向上のための練習時間は業務時間と扱わない
労働基準法は残業代の請求を労働者の正当な権利として定めており、当事者間の合意または会社側の一方的な説明によってその適用を排除することはできません。
残業代を支払わない旨の雇用契約を締結しても違法な契約として無効となります。
また、サービス技術向上のための練習時間であっても、会社の指示によりなされている場合は残業代が支払われなければなりません。 -
(2)管理職だから残業代は不要と言われた場合
残業代を請求するにあたり、会社から、「管理職であるから勤怠の管理は不要であり、残業代の支払い義務もない」という主張をされることが考えられます。
このようなときは、会社が考える「管理職」が、残業代の支払い対象にならない労働基準法が定める「管理監督者」に本当に該当するのかを判断する必要があります。最近問題となっている「名ばかり管理職」(残業代逃れのための形式的な肩書)であれば、労働基準法上の「管理監督者」にあたらず、正当な残業代請求権を持つことになります。
裁判例では、おおむね①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)、②自己の労働時間についての裁量を有していること(労働時間の裁量)、③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていること(賃金等の待遇)といった要素を満たすものかどうかにより判断されるとしています。厚生労働省においても「管理監督者」の判断に関する通達を出しており、判断における参考になります。
なお、管理監督者の判断は難しいため、悩んだ際には弁護士へご相談ください。 -
(3)残業代は支払っているといわれた場合
会社は、次のような方法によりすでに正当な残業代を支払っている、と主張することがあります。
・上限設定をしている場合
毎月の残業時間の上限を決めているケースです。たとえば、毎月10時間の残業まで支払うなど。
・定額設定をしている場合
実際の残業時間にかかわらず固定残業代を支給しているケースです。たとえば、毎月10時間分の残業手当がついているなど。
・手当に残業代を含めるとしている場合
毎月支給する手当に一定時間分の残業代を含むとするケースです。たとえば、毎月の手当に10時間分の残業代を含むなど。
このような方法を決めること自体は問題ありませんが、あらかじめ支払うと決めている残業代分を超えて残業した場合は、その超過分について残業代が支払われる必要があるため、何時間分がすでに支払われていて何時間超過しているのかを把握する必要があります。
3、残業代請求に有効な証拠とは?
残業代請求をするにあたって証拠集めは非常に重要です。
ここでは、有効な証拠、証拠としては不十分な資料について解説します。
-
(1)有効な証拠
実労働時間(労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間ことをいいます)が証明できるものであれば、証拠となりえます。これまでの裁判例を概観してみると、実労働時間の立証のために様々な資料が用いられ、ある事案では採用され、ある事案では採用されないなど、事案に応じたい取り扱いがなされています。いずれにせよ、証明のための資料として、最も大切なのは、客観性を備えているかどうかになります。例えば、タイムカード、労働時間管理ソフト、業務日誌、業務報告書、などは有力な証拠となります。また、会社のメールアドレスを使用した業務のメール履歴や、会社から送ったFAXの履歴なども、業務を実施していた時間を証明し得る有力な証拠になりえます。
また、パソコンのログインログオフ時間、入退出記録、会社建物の管理人証言なども、証拠のひとつとなり得ます。もっとも、パソコンの場合には、当該パソコンがノートパソコンで自宅に自由に持ち帰ることができ場合には、職場内で労働していたことを直ちに立証できるとは限りませんので、パソコン起動中に労働していたことを他の証拠などから立証する必要があるので注意しましょう。
さらに、未払い残業代を算出するには、労働時間の他に、各種の労働条件を確認しなければなりません。そのため、労働契約書、就業規則、給料明細なども用意する必要があります。 -
(2)証拠としては不十分な資料
本人の手帳や日記などのメモ、記録なども、証拠として利用することが可能です。
ただし、請求者本人が作成したものである点で信用性が低いと見られやすいため、それを補完する(裏付ける)証拠も必要となるでしょう。例えば、手帳やメモの記載と合致する他の客観的資料の存在(Suica利用明細及び入退室記録等)により信用性が補強されているといえるのであれば、その限度で手帳やメモ記載のとおりの労働時間が認定される可能性が高まるといえるでしょう。
サービス業の場合は、閉店後の清掃、会計、翌日の準備、サービスの練習などがサービス残業となりがちなため、残業したことを立証できる証拠を確保しておくことが請求の際重要になります。例えば、レジの締め時刻、シフト表、防犯カメラ映像、GPSの位置情報と時刻が記録されているスクリーンショット画像等が考えられるでしょう。
4、証拠はどのように集めるのがよいか?
残業代請求の証拠を集める際のポイントや、自身で証拠収集が難しい場合の対処法について解説します。
-
(1)在職中にそろえるのがベスト
会社に未払い残業代を請求すると決意した場合、請求先となる会社に在職している間に証拠集めをしておくことが必要です。特に、裁判例では、タイムカードの証拠価値を高く認めており、特段の事情がない限りは、タイムカードの打刻時刻をもって始業・終業の時刻と推認できるとされています。そのため、タイムカード等の客観性が高い方法で時間管理を行っている職場で働く労働者の方は、とにかくタイムカード等の確保を優先しましょう。
退職後に入手しようとしても、容易に入手できなくなる可能性が高くなるため、在職中に証拠を収集しておくことが非常に重要となります。 -
(2)自分で証拠収集が難しい場合は労働基準監督署や弁護士に相談
厚生労働省の通達は、「使用者(会社)は、労働時間の記録に関する書類を3年間保存しなければならない」と定めています。したがって、多くの場合は、会社に勤務記録が保管されていることになります。
そこで、会社に勤務記録などを開示させたうえで、未払い残業代を算出し、請求していくという方法もあります。
ただし、会社が開示に応じないこともあり得ます。そのようなときは、労働基準監督署(労働・雇用問題の解決を任務とする行政機関)に相談して、会社に勤務記録などを開示するように促してもらうという方法があります。
また、弁護士に依頼することで、会社への証拠開示の請求や会社への請求などについても依頼者の代理人として代わりに行ってもらえます。
お問い合わせください。
5、残業代の証拠がない場合の対応
弁護士に依頼することで会社に証拠の開示を請求したり、会社が応じない場合に裁判所を介した証拠開示の手続きを代行したりしてくれます。
また、証拠がないように見える場合であっても、複数の資料を用いて相互に補完させることで労働時間を立証できる場合もありますので、手元にある資料を持参して弁護士にアドバイスを受けるようにしましょう。
会社に残業代を請求していく流れは、次のようになります。
-
(1)会社に内容証明等で未払いの残業代を請求する
弁護士に依頼した場合には、証拠の開示や会社への請求を任せることができます。
一般的に会社に残業代を請求する場合には、内容証明郵便により行います。そうすることで、「いつ、どのような内容のものを、誰から誰にあてて差し出したか」ということを事後的に容易に立証することができます。 -
(2)会社と交渉する
弁護士が代理人として就任した場合には、会社も素直に残業代の支払いに応じるケースがあります。事案によっては、会社との話し合いや交渉が必要となることもありますが、すべて弁護士が対応することになるため、一方的に不利な内容で片づけられるなどということを予防することができます。
-
(3)労働審判や訴訟を提起する
話し合いでは会社が未払い残業代の支払いに応じない場合には、労働審判や通常訴訟を起こす必要があります。弁護士に依頼しておけば、このような場合であっても、引き続き裁判対応を任せておけます。証拠に基づき適切な主張を行ってくれるため、依頼者の希望に沿う内容で手続きが進められる可能性が高まります。
6、まとめ
会社に対して未払いの残業代を請求することを考えた場合、重要になるのは労働時間を把握するための証拠です。証拠の有無や客観性が大切であり、請求の可否や請求可能となる金額が決まるといっても過言ではないでしょう。
未払いの残業代があるかもしれないので話を聞きたい、まさに会社と交渉しているが話が進まない、手持ちの資料で話ができるのかわからないなど、残業代の請求でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスまでご相談ください。証拠収集を含め未払いの残業代回収に全力を尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています