ハイブリッドワークを導入する際の法律的な注意点

2022年04月26日
  • 一般企業法務
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ハイブリッドワークを導入する際の法律的な注意点

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、従来のオフィスワークではなくテレワークを導入した企業も多いでしょう。

新型コロナウイルスの感染状況が目まぐるしく変化していることに伴い、テレワークからオフィスワークへと働き方をシフトする会社がある一方で、「ハイブリッドワーク」という新しい働き方を導入する企業も増えてきています。ハイブリッドワークは、オフィスワークとテレワークのよいところを組み合わせた働き方であり、企業と従業員の双方にとってメリットのある働き方といえます。

ただし、ハイブリッドワークを導入する際には、新しい働き方にあわせて就業規則を変更する必要が生じる可能性があります。本コラムでは、ハイブリッドワークを導入する際の法律的な注意点について、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士が解説します。

1、「テレワーク」から「ハイブリッドワーク」への移行が進んでいる

ハイブリッドワークとは、複数の働き方を組み合わせた複合的なワークスタイルのことをいいます。これまでは、会社員の働き方といえば、オフィスに出社して働く「オフィスワーク」が中心でした。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、令和2年から、会社に出社せずに自宅においてリモートで仕事をするという「テレワーク(リモートワーク)」を導入する企業が増えました。

一方で、自宅でのテレワークでは対応することができない仕事や、対面の方が効率的な仕事も存在することから、オフィスワークの必要性についても改めて再認識されるようになってきています。

そのため、最近では、オフィスワークとテレワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」に注目が集まるようになりました

2、ハイブリッドワークのメリット

ハイブリッドワークを導入することには、以下のようなメリットがあります。

  1. (1)優秀な人材を確保することができる

    ハイブリッドワークを導入することによって、優秀な人材を確保することができるという可能性が高まります。
    求職者が会社に応募する際には、給料などだけでなく、働きやすさやワークライフバランスも重視するものです。そのため、時代にあったハイブリッドワークを導入して、仕事内容に応じて働き方や働く場所を選ぶことができる企業のほうが、多くの求職者からの応募を受けて、そのなかから優秀な人材を確保することが期待できるでしょう。

  2. (2)最適な環境で仕事をすることで生産性が向上する

    従業員によっては、オフィス勤務の方が集中することができるという方も、いれば自宅で仕事をした方が集中することができるという方もいます。
    毎日長時間かけて会社に出社するよりも、その時間を仕事にあてた方が、業務効率が上がる可能性もあります。
    従業員がそれぞれにとって最適な環境で仕事をすることができるようになれば、生産性の向上にもつながるのです。

  3. (3)多様な働き方が可能となり従業員のモチベーションが高まる

    従業員が自分の意思によって働く場所を選ぶことができることで、仕事に対して前向きに取り組むようになり、従業員の仕事に対するモチベーションが高まることにつながります。
    自らの意思で働き方を選ぶということは、従業員自身の主体性が増す、ということです。そのため、従業員が自分の仕事に対して責任を持ったり、積極的に行動したりする、ということが期待できます。
    また、モチベーションが高まることによって、優秀な人材が会社を辞めてしまうというリスクを減少させることにもつながると思われます。

3、ハイブリッドワーク導入の際は「就業規則」の変更が重要

ハイブリッドワークを導入する場合には、就業規則の変更が必要となる場合があります

  1. (1)既存の就業規則の見直しが必要

    ハイブリッドワークを新たに導入することになったとしても、労働時間制度やその他の労働条件が同一である場合には、就業規則の変更をしなくても、既存の就業規則によってハイブリッドワークを導入することができます。

    しかし、ハイブリッドワークを導入する場合には、始業・終業時間の変更、休憩時間の長さ、通勤手当の支給要件などが変わる可能性があります。
    また、テレワーク時の通信費用の負担をどのようにするかについて、新たに決めなければならないこともあるかもしれません。

    既存の就業規則をそのまま適用してしまうと不具合が生じてしまう可能性があるので、ハイブリッドワークの導入時には、既存の就業規則を見直すことをおすすめします

  2. (2)就業規則を変更する際のポイント

    ハイブリッドワークを導入する場合には、以下のような項目について規則を定めておくことをおすすめします。

    ① 目的、定義、対象者
    ハイブリッドワークは、オフィスワークとテレワークを併用する制度であるため、1週間のうち3日をオフィスワークとして残り2日をテレワークとする方法や、午前または午後といった1日の勤務時間をオフィスワークとテレワークに分けるという方法など、さまざまな運用が考えられます。
    どのような条件でハイブリッドワークを認めるのかは、企業の実情などに応じて決めることになりますが、従業員が混乱しないように、ハイブリッドワークを認める条件や期間を明確に定義しておくことが必要になります。
    また、職種などによって対象者を限定する場合には、ハイブリッドワークの対象者の定義も必要となるでしょう。

    ② 服務規律
    テレワークでは、従業員は、自宅やオフィス外の施設などで仕事をすることになります。そのため、情報漏えいに関するリスクが高まります。
    就業規則には、顧客情報の管理の方法、データの共有方法、公共性の高いネットワークへの接続禁止など、セキュリティー面に関する注意事項を記載しましょう。
    情報漏えいは企業にとって致命傷となる可能性がありますので、就業規則への明記の他に、定期的な社員研修などによって周知徹底することが大切です

    ③ 労働時間制
    ハイブリッドワークを導入する際には、どのような労働時間制を採用するかによって、始業・終業時間、休憩時間、賃金の計算方法などが変わってきます。
    通常の労働時間制の他に、場合によっては、フレックスタイム制や裁量労働制といった制度を新たに導入することも考えられます。

    ④ 勤務時間管理
    オフィスワークとテレワークが組み合わされるハイブリッドワークでは、従業員の勤怠管理が難しくなります。
    そのため、就業規則には、始業・終業時間の勤怠管理、業務遂行状況の管理、労働時間中の在席管理などの記録・報告に関する連絡方法についても、明記しておくことが重要と考えられます。
    また、勤務時間を管理するためにクラウドサービスの勤怠管理システムを導入するという手段をとることも可能です。

    ⑤ 賃金と手当
    ハイブリッドワークを導入する場合には、通勤手当、固定残業代、皆勤手当など各種手当の支給要件についての見直しが必要になることがあります
    例えば、オフィスワークを前提に支払われている通勤手当については、テレワークを併用することによって従業員の交通費の負担が減ることになります。そのため、テレワークの利用状況に応じて通勤手当を変更することができる内容にしたほうがよいでしょう。
    ただし、賃金や手当を変更する際には、変更の内容が労働条件の「不利益変更」にあたる可能性があります。仮に不利益変更に当たる場合、当該変更は、労働者の同意がない場合、無効になってしまう可能性がありますので、賃金や手当に関する変更を行う際には注意しましょう。

    ⑥ 費用負担
    テレワーク中の通信費の負担や光熱費の負担などについても、就業規則に定めることができます。
    従業員の自宅に発生する通信費や光熱費については、すべてがテレワークによって生じるものではありませんが、その一部は業務を原因として発生することも事実です。
    通信費や交通費について会社が負担するか、負担するとすればどの程度を負担するかということについて、従業員との話し合いをしたうえで決めることをおすすめします。

4、ハイブリッドワーク導入の注意点

ハイブリッドワークを導入する際には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)ハイブリッドワークでも残業代の支払いが必要

    ハイブリッドワークによってテレワークを併用すると、従業員の勤怠管理が難しくなります。そのため、「テレワーク中は残業代の支払いをしない」という扱いをする企業もあるかもしれません。

    しかし、テレワークは、勤務する場所がオフィスから自宅に変更になっただけであり、その他の条件は、原則として、オフィスで働いているときと同一です。

    したがって、テレワーク中に法定労働時間を超えて労働をした場合には、その時間に応じた残業代を支払わなければならないのです。
    ただし、みなし労働時間制を採用している場合で、その運用が適切になされている場合は、残業代が発生しない場合もあります。

  2. (2)従業員が仕事を怠る可能性がある

    ハイブリッドワークの導入により、オフィス以外の場所で働くことになると、会社の目が行き届かないことをいいことに、仕事を怠る従業員があらわれる可能性もあります。
    就業時に進捗(しんちょく)報告を義務化したり、定期的なコミュニケーションをとったりすることなどによって、従業員の業務懈怠(けたい)をある程度防止することが期待できます。

    業務の遂行をすべて従業員に任せきりにするのではなく、定期的にWeb会議を行い、目標設定を明確にするなどして、従業員に対する業務管理を適切に行うようにしましょう。

5、ハイブリッドワークを導入するなら弁護士に相談

ハイブリッドワークの導入を検討している企業は、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)ハイブリッドワークに対応した就業規則の作成

    ハイブリッドワークを導入する場合には、就業規則の変更が必要になる可能性が高いと思われます。

    しかし、ハイブリッドワークは、新しい働き方ですので、その内容が十分に知れ渡っているとはいえません。企業の担当者の知識や能力によっては、ハイブリッドワークに対応した適切な就業規則を作成することが困難といえます。

    弁護士であれば、企業の実情に応じた最適な働き方を提案することができるだけでなく、既存の就業規則を見直して最適な就業規則を作成することが期待できます

  2. (2)ハイブリッドワークによって生じる労働問題についての対応が可能

    ハイブリッドワークを導入すると。会社および従業員の双方が制度への理解が十分でないことから、労働条件や賃金の支払いなどについてトラブルが生じる可能性があります。

    弁護士であれば、労働問題が生じた場合にも対応することができますので、トラブルが大きくなる前に問題を解決することができます。
    労使間のトラブルに発展すると、会社の対外的な信用性にも傷がつくおそれがありますので、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします

6、まとめ

ハイブリッドワークは、労働者と使用者の双方にメリットのある働き方です。

しかし、ハイブリッドワークの導入にあたっては、就業規則の整備など法的観点からの対応が必要になることがあります。導入を検討されている際には、まずは弁護士に相談をすることをおすすめします。

埼玉県川越市や周辺市町村で、ハイブリッドワークの導入をご検討中の企業は、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスにまで、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています