裁判での嘘(うそ)の主張が罪に問われる? 偽証罪が成立する可能性について
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さいたま地方裁判所川越支部における2019年の新受件数は、民事事件が5553件、刑事事件が790件でした。
民事裁判・刑事裁判を問わず、裁判で嘘(うそ)の証言をした場合には「偽証罪」に問われる可能性があります。裁判の当事者には偽証罪は成立しませんが、偽証罪以外の罰則の対象になる可能性はあるので、注意が必要です。
本コラムでは、裁判で嘘の主張をした場合に成立する偽証罪などの犯罪について、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士が解説します。
1、裁判で嘘をつくと「偽証罪」に問われる?
「偽証罪」とは、法律に基づいて宣誓をした証人が虚偽の陳述をした場合に成立する犯罪です(刑法第169条)。
虚偽証言は、審判権の適正な行使を阻害すると考えられることから、偽証罪によって禁じられているのです。
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(1)偽証罪の構成要件
偽証罪が成立するのは、以下の構成要件をすべて満たす場合です。
① 証人であること
偽証罪の対象となるのは、裁判における「証人」のみです(身分犯)。
② 法律によって宣誓したこと
偽証罪は、法律によって宣誓した証人についてのみ成立します。
宣誓は、法律の根拠に基づき、適法に行われることが必要です。
③ 虚偽の陳述をしたこと
「虚偽の陳述」とは、「証人の記憶に反する陳述」のことと解されています(主観説)。 -
(2)偽証罪が成立しないケースの例
証人が裁判所の法廷で虚偽の陳述をしたとしても、上記の偽証罪の構成要件を満たさない場合には、偽証罪は成立しません。
具体的な例としては、下記のようなものがあります。
① 裁判の証人尋問以外で虚偽陳述を行った場合
「証人」とは、法律の規定によって証人として陳述するよう命じられた者で、法律により真実を述べる旨を宣誓した者をいい、過去に経験した事実を審判機関に対して直接報告する第三者をいいます。
したがって、裁判中であっても証人尋問以外の場面における不規則発言として虚偽陳述を行った場合や、裁判所の外で虚偽陳述を行った場合などには、偽証罪は成立しません。
② 裁判所に虚偽の陳述書を提出した場合
裁判所に虚偽の陳述書を提出したとしても、証人尋問の中で行われる「証人」としての証言ではないため、偽証罪は成立しません。
提出者が後に証人尋問を受ける予定である場合にも、同様です。
ただし、証人尋問で宣誓を行った後に、虚偽の陳述書に書かれている内容が真実であると(虚偽の)証言をした場合には、偽証罪が成立する可能性があります。また、証拠隠滅等罪や犯人隠避罪が成立する可能性もあります。
③ 裁判の当事者が虚偽陳述を行った場合
裁判の当事者(民事訴訟の原告・被告、刑事訴訟の被告人)は、裁判所・代理人・相手方当事者から尋問(主尋問・反対尋問・補充尋問)や質問を受けることがあります。
しかし、裁判の当事者は「証人」ではないため、虚偽陳述を行ったとしても、偽証罪は成立しないのです。
④ 宣誓無能力の証人が誤って宣誓し、その後に虚偽陳述を行った場合
民事訴訟・刑事訴訟のどちらにおいても、証人には原則として宣誓が義務付けられています(民事訴訟法第201条第1項、刑事訴訟法第154条)。
ただし、以下のいずれかに該当する場合には、証人の宣誓義務が免除されます。
このうち、宣誓無能力者である証人に対して誤って宣誓をさせた後、証人が虚偽の陳述をした場合には、偽証罪は成立しないのです。<証人に宣誓をさせることができない場合(宣誓無能力)>
(a)民事訴訟- 証人が16歳未満の場合(民事訴訟法第201条第2項)
- 証人が宣誓の趣旨を理解することができない場合(同)
- 証人が宣誓の趣旨を理解することができない場合(刑事訴訟法第155条第1項)
<裁判所の判断により、証人に宣誓をさせないことができる場合>※民事訴訟のみ
- 証言拒絶権があるが、それを行使しない証人を尋問する場合(民事訴訟法第201条第3項)
<証人が宣誓を拒める場合>※民事訴訟のみ
- 自己または自己の配偶者、四親等内の血族、三親等内の親族の関係にある者(あった者)、後見人もしくは被後見人に、著しい利害関係のある事項について尋問を受ける場合(民事訴訟法第201条第4項)
⑤ 客観的事実に反する証言を行ったが、証人の記憶には沿っていた場合
前述のとおり、偽証罪の構成要件である「虚偽の陳述」とは、証人の主観的な記憶に反する陳述を意味します。
したがって、仮に客観的な事実に反するとしても、証人の記憶のとおりに証言した場合には、「虚偽の陳述」に当たらないため、偽証罪は成立しません。 -
(3)偽証罪の法定刑
偽証罪の法定刑は、「3カ月以上10年以下の懲役」とされています。
ただし、偽証罪に当たる虚偽の陳述をしたことについて、裁判が確定する前に自白をしたときは、裁判所の判断によってその刑を減軽することや免除することができます(刑法第170条)。
2、偽証罪は裁判の当事者に成立しない
前述のとおり偽証罪の対象は「証人」に限られており、裁判の当事者には偽証罪が成立しません。
具体的には、民事訴訟の原告・被告や、刑事訴訟の被告人には、偽証罪が成立しないのです。
3、虚偽陳述について発生する、偽証罪以外のペナルティー
裁判の場での虚偽陳述については、偽証罪以外にも以下のペナルティーが課される可能性があります。
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(1)虚偽鑑定等罪・虚偽告訴罪
法律により宣誓した鑑定人・通訳人・翻訳人が、虚偽の鑑定・通訳・翻訳をした場合には、「虚偽鑑定等罪」が成立します(刑法第171条)。
虚偽鑑定等罪の法定刑は、偽証罪と同じ「3カ月以上10年以下の懲役」です。 -
(2)過料
裁判の当事者に偽証罪は成立しませんが、民事訴訟に限り、宣誓をした当事者が虚偽の陳述をした場合、「10万円以下の過料」に処される可能性があります(民事訴訟法第209条第1項)。
なお、民事訴訟の当事者に宣誓をさせるかどうかは、裁判所の裁量に委ねられています(同法第207条第1項)。
裁判所による過料の決定に対しては、即時抗告が認められています(同法第209条第2項)。
即時抗告は、決定の告知日から1週間以内に行わなければなりません(同法第332条)。
また、訴訟の係属中に、陳述が虚偽であることを当事者が認めた場合には、裁判所は事情により過料の決定を取り消すことができます(同法第209条第3項)。 -
(3)裁判所の心証が悪化|不利な判決を受ける可能性がある
裁判の当事者が嘘の主張をしたことが発覚した場合、裁判所の心証が悪化し、最終的に偽証した者に不利な判決が言い渡されてしまう可能性があります。
偽証罪に問われることがないとしても、当事者が裁判でその場しのぎの嘘をついてしまうと、結果的に自身が大きな不利益を被ってしまうおそれがある点に十分注意しましょう。
4、民事裁判では偽証罪が成立しにくい傾向にある
偽証罪は、民事訴訟・刑事訴訟のどちらにおいても成立する可能性があります。
しかし、実際には、民事訴訟の証言について偽証罪が成立するケースは珍しくなっております。
民事訴訟における虚偽証言について、偽証罪の責任を問われる可能性が低いのは、「虚偽の陳述」であることの立証が難しいためと考えられます。
先述したように、偽証罪における「虚偽の陳述」とは、証人の主観的な記憶に反する陳述を意味します。
しかし、証人の記憶がどうであったかを立証するためには、かなり詳細な調査や分析が必要となります。
刑事訴訟であれば、証人に対する取り調べなどを通じて、偽証の事実を立証できる可能性があるでしょう。
これに対して、証人について詳しい調査を行うことが難しい民事訴訟では、証人の記憶のありさまを客観的に示すハードルが高く、偽証罪の責任を問うまでに至ることは珍しいのです。
5、まとめ
証人として参加した裁判において、証人尋問の場で虚偽の陳述をした場合には、偽証罪が成立する可能性があります。
これに対して、証人以外の者による虚偽の陳述は、偽証罪の対象にはなりません。
ただし、他の犯罪や過料の対象になる場合があるほか、裁判所の心証が悪化して不利な判決を受けてしまうおそれがある点に注意が必要です。
そのため、裁判での嘘の主張は避け、客観的な事実と証拠に基づいて説得的な主張を展開するように努めましょう。
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