妻が自分の貯金を使い込んでいた場合の、離婚や財産分与のポイントは?

2024年06月19日
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妻が自分の貯金を使い込んでいた場合の、離婚や財産分与のポイントは?

令和5年度の司法統計によると、婚姻関係をめぐる調停と審判は全国で約6万件弱あり、そのうち申し立ての動機が「相手の浪費」の件数は約5298件と、約1割を占めました。

「家計管理は妻に任せている」という家庭は多々あります。任せきりにした結果、自分は生活費や貯金の詳細を知らない、などということも多いものです。

しかし、その結果、知らぬ間に妻にお金を使い込まれてしまうこともあります。このような配偶者による財産の使い込みが原因で離婚に発展するケースも少なくありません。

使い込まれた分を取り返すことが難しい場合には、財産分与で考慮するという手があります。

本コラムでお伝えすることは、大きく以下の3つです。
・財産の使い込みを理由に離婚することはできるのか
・使い込まれた分を取り返す場合の財産分与や慰謝料請求
・夫や妻の浪費で借金があった場合、支払い義務はあるのか?

配偶者の財産の使い込みでお悩みを抱えている方に向けて、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士が解説します。


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1、使い込みを理由に離婚できる? 財産分与はどうなる?

「夫や妻が知らぬ間に家のお金を使い込み、気づけば貯金残高が残りわずかだった……」ということになると、配偶者としては不信感が募るものです。そして、「離婚」という選択肢を考える方もいるでしょう。
以下では使い込みを理由に離婚できるのか、使い込まれた分は財産分与で考慮されるのか、という点について解説します。

  1. (1)使い込み・浪費を理由に離婚できる

    離婚の方法には「協議離婚」「調停離婚」「審判離婚」「裁判離婚」があります。

    このうち、協議離婚は両者の合意のもと、離婚届を提出すれば成立します。
    協議でまとまらない場合には、調停や審判によって離婚を図ることになります。

    協議や調停・審判における離婚は、使い込みでも性格の不一致でも、ほかのどのような理由でも可能です。

    一方、裁判離婚が認められるためには、民法第770条で定められた「離婚事由」という、離婚の原因や理由が必要となります

    法定離婚事由は以下の5つになります。

    • 不貞行為があった
    • 悪意の遺棄があった
    • 相手が3年以上生死不明
    • 強度の精神病になり、回復の見込みがない
    • その他婚姻を継続し難い重大な事由がある


    原則として、「財産の使い込み」それ自体は、法定離婚事由とはなりません

    しかし、「浪費癖が直らず指摘すると暴力をふるう」「貯金を使い果たして、借金をする」など、財産の使い込みが間接的な理由となって夫婦関係が破たんした場合には「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があるのです。
    そして、裁判所で法定離婚事由として認められたら、離婚が成立します。

  2. (2)財産分与の基本は共有財産の「折半」

    離婚の際には、夫婦で財産分与を行います。
    財産分与とは、婚姻中に夫婦で築いた「共有財産」を分け合うことです。

    分与の割合は、基本的には2分の1です。妻が専業主婦であったり、夫婦で収入格差があったりする場合にも、原則として、財産を築く過程での夫婦の貢献度は等しいものと見なされるためです。

    具体的には預貯金や家、家財道具などが共有財産とみなされ、分与の対象になります。
    名義は関係ないため、夫名義で購入して夫婦で使用していた車なども、共有財産に含まれます。

    ただし、独身時代にためた貯金や、相続で親からもらった財産などは、共有財産ではなく個人の「特有財産」とみなされるため、分与の対象外となります(民法第762条)。

  3. (3)使い込み分は財産分与の際に請求できる

    配偶者が自分の貯金を使い込んでいるとわかったら、「その分を返してほしい」と思うものでしょう。
    しかし、相手の貯金に手を出すくらいなので、使い込んだ本人の貯金はほとんどない場合が多いものと考えられます。

    財産分与は原則2分の1ですが、夫婦の一方が勝手に財産を使い込んだのに残った共有財産を均等に分け合うことは不公平と考えられます。
    そのため、使い込みがあった場合には、財産を折半するのではなく、使い込み分を考慮して相手の取り分を減らすことになるでしょう

    ただし、それを実現するためには、使い込まれた額を明らかにし、それが「不必要な支出だった」ことを証明しなければなりません。

2、使い込みによる慰謝料請求は可能か

配偶者の不貞行為が原因の離婚では、慰謝料を請求することができます。
では、配偶者による財産の使い込みが原因で離婚する場合は、慰謝料は請求できるのでしょうか?

  1. (1)慰謝料請求ができる可能性はある

    離婚慰謝料は、相手のほうに不貞行為などの「民法上の不法行為」があった場合に請求されます。

    財産の使い込みは、それ自体直ちに不法行為になるわけではありません。
    しかし、理由や程度が重く、使い込みが原因で夫婦関係が破綻した場合には、相手に離婚の責任があるとして慰謝料を請求できる可能性があります

    慰謝料額は、使い込みの金額や頻度、生活への影響、婚姻期間の長さなどによって変わります。
    ギャンブルやDVなどの背景がある場合には、それも影響します。

    ただし、使い込みが少額であり生活にほとんど影響がない場合には、請求は難しいでしょう。

  2. (2)実際に請求するかはよく検討しよう

    財産の使い込みに対して慰謝料を請求することは可能ですが、実際に慰謝料が請求した金額の通りに支払われるかどうかは、別問題です。

    財産を使い込みしているような相手には貯金はほぼないでしょうし、借金をしている可能性もあります。

    請求にかかる時間や手間を考えると、わりに合わなかったり、費用倒れになったりするおそれが高いのです
    また、上記のとおり、使い込みの程度によっては慰謝料請求が認められない可能性もあります。
    その場合、相手が使い込んだ財産を少しでも回収するにあたっては、慰謝料を請求するのではなく、財産分与に使い込まれた分を考慮させることが現実的な方法だといえます。

    適切な方策は、個別の事情によっても変わります。財産の使い込みについてお悩みの方は、一度弁護士に直接相談してください。

3、夫や妻の浪費で借金があったら支払い義務はある?

使い込みが続けば貯金は底をつきます。それでも浪費が続けば、いずれ借金に手を出してしまうおそれもあります。
では、夫や妻が借金をした場合、配偶者にも支払い義務が生じるのでしょうか?

  1. (1)浪費であれば支払う義務はない

    借金の原因が夫や妻の友人との旅行やブランド品購入といった浪費の場合、夫婦のもう一方に支払い義務はありません。

    その借金はあくまで個人のための支出であり、家族が責任を負う必要はないのです。

  2. (2)生活のための借金であれば支払う義務がある

    借金の原因が家族の生活のための場合は、もう一方にも借金の支払い義務が生じます

    民法第761条は、日常の家事について法律行為をしたときは、もう一方もその責任を負うと規定しています。

    たとえば、夫の給料が少なく、食費や子どもの学費など生活に必要なお金が足らずに借金をした場合は、夫婦が共同で返済をしていかなければならないのです。

  3. (3)借金の保証人になっていれば支払う義務がある

    夫や妻が借金をする際に保証人になった場合にも、支払い義務が生じます

    その借金の原因がパチンコ代やブランド品の購入費用であったとしても、保証人になってしまったら、原則として、支払わなければいけません。
    そして、離婚しても支払い義務が消えるわけではないのです。

    保証人になってほしいと頼まれた場合は、何に使うお金なのかをきちんと確かめておきましょう。
    何も聞かずにハンコを押せば、大きな責任を負うことになってしまいます。

4、使い込みが原因で離婚するときは弁護士に相談

配偶者の使い込みがひどく、指摘しても浪費癖が治らない場合には離婚も考えるでしょう。使い込まれた分を考慮した財産分与も目指したいところです。
ただし、使い込みには特有の立証の難しさがあるため、まずは弁護士に相談することが大切です

  1. (1)使い込みは立証が大事

    相手の使い込みが原因で夫婦関係に亀裂が入り離婚をする場合、まずは話し合いをして、合意できなければ調停や裁判をすることになります。

    離婚の際に使い込んだ分を考慮して財産分与を行う場合は、使い込んだ額を明らかにし、それが浪費であったことを立証しなければいけません。

    相手が「生活費として使った」と浪費を否定してきた場合、自分の側でそれを覆すことができなければ、財産分与の割合は原則として折半になります。
    「浪費だった」ということを証明するためには証拠が必要になります。
    たとえばブランド品購入の領収証やクレジットカードの明細、借金の契約書などが、証拠として用いることができます。

    証拠の収集については、弁護士に相談することができます。
    弁護士は証拠探しのアドバイスや、有効な証拠がない場合の代替となる証拠の提案など、浪費を証明するためのサポートをしてくれます。

  2. (2)離婚条件の設定や公正証書作成にはサポートが必要

    話し合いで離婚する場合は、慰謝料や財産分与など離婚の条件を決めなければいけません。

    使い込みがあった場合は、それを考慮して条件を決めますが、相手は「浪費ではなく生活費」「財産分与は半分ずつが基本」などと主張してくる可能性があります。
    条件設定でもめてしまうと、なかなか話が進まないでしょう。

    弁護士であれば、これまでの事例をもとに条件を考えたり相手と交渉したりして、依頼主にできるだけ有利になるような対策を講じることができます

    合意内容は公正証書にしておけば、内容をきちんと残しておくことができて後々のトラブルが防げます。
    書類の作成も、弁護士に任せれば安心です。

  3. (3)調停や裁判の負担を軽減できる

    離婚調停や裁判は手続きや証拠集め、相手との交渉など、手間と時間を要し肉体的にも精神的にも大きな負担がかかります。
    一人で進めるのは、簡単ではありません。

    離婚に詳しい弁護士に頼めば、さまざまな手続きを代行してくれるため、負担が軽減できるでしょう

5、まとめ

知らない間に財産を使い込みされていたことがわかった場合、離婚したり、使い込んだ分を返してもらったりするためには、さまざまな対応が必要となります。

川越市や近隣市町村にお住まいで離婚を検討されている方は、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスにまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています