自転車の事故で過失傷害罪に問われたら、どうする?

2024年05月22日
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自転車の事故で過失傷害罪に問われたら、どうする?

自転車の危険運転や自転車利用者の法令遵守について、世間の注目が集まっています。
埼玉県警川越署では、令和6年4月に春の全国交通安全運動出発式を行い、自転車乗用時のヘルメット着用を促進するなど、取り締まりだけでなく啓発活動にも力を入れているところです。

警察が自転車の安全利用を促す背景には、自転車が加害者となる交通事故が多発しているという事情が存在します。たとえば、令和4年6月には、都内で宅配代行サービスの配達中だった外国籍の男性が自転車で歩行者をはねて逃走する事故が発生しました。

本コラムでお伝えすることは、大きく以下の3つです。
・自転車事故で問われる刑事罰「過失傷害罪」について
・自転車事故で逮捕されたあとの流れ
・自転車事故の加害者となってしまったら、弁護士に相談すべき理由

自転車事故の加害者として逮捕されそうな方、逮捕されてしまった方に向けて、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士が解説します。


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1、自転車事故は刑事事件になる? 「過失傷害罪」とは?

自転車の運転中に歩行者などに接触・衝突して相手にケガを負わせてしまうと、刑法の「過失傷害罪」が成立する可能性があります。
その場合、単なる偶然の事故としてではなく、犯罪として扱われることになります。
以下では、過失傷害罪の概要や刑罰を解説します。

  1. (1)過失傷害罪とは?

    過失傷害罪は、刑法第209条に定められている犯罪です。
    「過失により人を傷害した者」を罰するものであり、故意ではなく不注意が原因で人にケガを負わせてしまった場合に成立します

    本来、刑法第38条1項本文には「罪を犯す意思がない行為」がない行為は罰しないという規定があります。
    とすれば、わざとではなく不注意が原因の自転車事故では罰せられないとも思えます。
    しかし、同項には「法律に特別の規定がある場合はこの限りではない」という但し書きがあります。
    そして、過失傷害罪はこの「特別の規定」にあたることから、不注意が原因であっても処罰の対象になるということです

  2. (2)過失傷害罪に科せられる刑罰

    過失傷害罪に対して科せられる刑罰は「三十万円以下の罰金または科料」です。
    罰金とは1万円以上の金銭を徴収される刑、科料とは1000円以上1万円未満の少額を徴収される刑であり、いずれもお金を国に納付することで刑が終了します。
    あらかじめ法律で定められている範囲の刑罰しか科せられないので、たとえば相手が瀕死(ひんし)の重傷に陥ったり、重度の障害が残ったりしても、「傷害」の範囲であるなら、懲役や禁錮といった刑務所に収監されて自由を奪われるような刑罰は科せられません。

  3. (3)「過失致死罪」や「重過失傷害罪」はさらに厳しく処罰される

    過失傷害罪は、「罪を犯す」という意思がなかったことが前提の犯罪であるため、科せられる刑罰は軽微なものだといえます。
    しかし、たとえ不注意が原因だとしても、相手を死に至らしめてしまったり、その不注意の度合いが重大であったりする場合には、厳しい処分になる可能性があります。

    不注意が原因で相手を死に至らしめた場合は、刑法第210条の「過失致死罪」が適用され、「五十万円以下の罰金」が科せられます。

    また、「重大な過失」があったと認められる場合は刑法第211条後段の「重過失致死傷罪」が適用されて、「五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金」が科せられます。
    自転車の運転においては、いわゆる「ながらスマホ」や「傘さし運転」をしていて前方を見ていなかった、ブレーキが装備されていない「ピスト」と呼ばれる自転車を運転していた、猛スピードで歩行者の間を縫いながら運転していた、などのケースが考えられます。このようなケースにおいては、「重過失致死傷罪」が適用される可能性があります。

2、刑事事件になるとどうなる? 刑事手続きの流れ

自転車事故であっても、相手がケガをした場合には「過失傷害罪」に問われて、刑事事件になってしまう可能性があります。
以下では、刑事事件に発展した場合の手続きの流れを解説します。

  1. (1)在宅事件と身柄事件

    刑事事件の捜査の手法は「在宅事件」と「身柄事件」の二種類に分けられます。

    • 在宅事件
      在宅事件とは、被疑者を逮捕せず、必要に応じて任意で警察署などへの出頭を求めて、取り調べなどの捜査を行う手法です。
      警察捜査の原則は「任意捜査」であるため、逃亡や証拠隠滅を図るおそれがなければ在宅事件として捜査が進みます。
    • 身柄事件
      身柄事件とは、被疑者を逮捕し、捜査機関のもとで拘束して取り調べなどの捜査を進める手法です。
      事故現場で現行犯逮捕された、その場から逃走したものの後日の捜査によって特定されて逮捕状にもとづいて逮捕された、といったケースは身柄事件として扱われます。
  2. (2)逮捕されると身柄拘束を受ける

    警察に逮捕されて身柄事件になると、法律のルールに従って身柄拘束を受けることになります

    警察は、逮捕後の48時間以内まで、身柄を拘束することができます。
    身体を拘束された被疑者は、事故に至った経緯などの取り調べを受けます。当日中だけでは取り調べが終わらない場合には、警察署の留置場に収容されることになります。
    スマートフォンなどはすべて留置担当者に預けることになるので、家族や会社などへの連絡もできません。

    さらに、警察から検察へ事件が送られると、ここでも24時間以内の身柄拘束を受けます。
    そして、検察官による取り調べを受けたうえでさらに身柄拘束を続ける必要があると判断された場合には、「勾留」による身柄拘束へと切り替わることになります。
    初回で10日間、延長によって追加で10日間以内という長期の身柄拘束を受けることになり、通学や通勤などの社会生活を行うこともできなくなるため、さまざまな不利益が生じてしまうことになるのです。

  3. (3)逮捕されなくても刑事手続きを受ける

    ニュースなどでは容疑者(=被疑者)が逮捕された事件ばかりが報道されるため、「逮捕されれば刑罰を受ける」「逮捕されなければ罪は問われない」という認識をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
    しかし、身柄事件でも在宅事件でも、警察が捜査を進めて検察へと引き継ぎ、検察官が起訴・不起訴を決定し、起訴の場合は刑事裁判が開かれる、という刑事手続きの流れは基本的に同じです。

    逮捕されず在宅事件として扱われたとしても、罰せられる可能性があると認識しておいてください

3、刑が確定したらどうなる?

以下では、刑事裁判で有罪となった場合、あるいは「略式命令」によって簡易的な手続きで刑が確定した場合に、その後に起こる事態について解説します。

  1. (1)過失傷害罪は金銭を納付すれば刑が終了する

    自転車の運転で相手にケガを負わせた場合、「重大な過失」がなければ「過失傷害罪」に問われる可能性があります。
    過失傷害罪の法定刑は「三十万円以下の罰金又は科料」であるため、刑が確定して金銭を納付すれば刑が終了し、それ以上の刑事責任は問われません
    金銭を納付すれば刑が終了する点は、相手を死に至らしめ「過失致死罪」に問われた場合でも同じです。

    ただし、「重過失傷害罪」が適用された場合には、法定刑に懲役・禁錮が含まれることになります
    どの刑罰が適切なのかは、刑事裁判を通じて、裁判官によって判断されます。
    懲役・禁錮の実刑判決が言い渡された場合は刑務所へと収監されます。一方、裁判官が判決に執行猶予を付した場合は、直ちに刑が執行されるのではなく、社会生活を送りながら更生を目指すことになります。

  2. (2)罰金でも「前科」がつく

    たとえ罰金や科料といった金銭徴収の刑を受けただけで済んだとしても、「前科」はついてしまいます
    前科のことを「刑務所に入った経歴」だと誤解している方もいらっしゃいますが、実際には前科とは「刑罰を受けた経歴」を指します。
    懲役や禁錮だけではなく罰金・科料も法律で定められた刑罰であるため、れっきとした前科になるのです。

    前科は極めて重要な個人情報であるため、他人にその情報が漏れてしまうことは通常ありません。
    結婚前に相手の親が興信所に調査を依頼した、会社の入社試験で身上調査を受けたといった場合でも、前科を調べられるのは限られた公的機関だけなので、興信所や会社が調査することはできないのです。
    ただし、直近の数年以内に前科があると、公的な資格の制限を受けて新たに資格を取得できなくなったり、現在の仕事を辞めなくてはならなくなったりするおそれがあります

    自転車事故を起こした事実がある以上、刑事裁判になれば有罪判決を回避することは困難です。
    資格制限などに不安があるなら、刑事裁判に発展することを防ぐために不起訴を目指す必要があります。

4、自転車事故の解決は弁護士に一任したほうが安全

自転車の運転で他人にケガを負わせて刑事責任を追及される事態になった場合は、直ちに弁護士に相談してください。

  1. (1)被害者との示談交渉を任せられる

    被害者が存在する事件をもっとも穏便に解決できる方法のひとつが「示談」です
    示談では、警察や裁判所が介しない場で加害者と被害者が話し合いを進めて、謝罪や弁済、示談金などの取り決めをしたうえで和解を図ります。

    事故発生の直後に近いタイミングで示談交渉をもつことができれば、警察が事件化する前にトラブルを解決できる可能性があります。
    また、すでに警察に発覚している状況であっても、示談交渉を進めることには意味があります。

    なぜなら、示談成立の有無は、検察官が起訴・不起訴を判断する際や、裁判官が刑事裁判で量刑を決める際に影響をもたらすためです。
    検察官が起訴に踏み切る前に示談が成立すれば、加害者を罰する必要がないとして不起訴になる可能性が高まるでしょう。
    刑事裁判に発展した場合でも、被害者・加害者の双方が和解している事情が考慮され、量刑が軽い方向へと傾きやすくなります。

    とはいえ、被害者との示談交渉は決して簡単ではありません。
    なかなか相手にしてもらえなかったり、法外なほどに高額の賠償を求められたりするケースも多々あります。
    そのため、示談交渉は弁護士に依頼することをおすすめします
    弁護士に依頼すれば、被害者の心情に配慮しつつ、過度に負担が重くならない方向で和解を実現できる可能性が高まります。

  2. (2)証拠の収集を任せられる

    自転車事故においては、過失の程度が問題になることが多々あります。
    検察官や裁判官が「重大な過失」があると判断すれば、刑罰は重くなってしまう可能性があります。
    厳しい処分を避けるためには、加害者にとって有利となる証拠を収集することが欠かせません。
    証拠を収集するためには法律の知識や実務経験が必要となるので、早い段階から弁護士に依頼しましょう

5、まとめ

たとえ不注意が原因でも、自転車の運転で事故を起こして相手にケガを負わせてしまうと、法律の定めに従えば「過失傷害罪」という犯罪になります。
ただし、必ず逮捕されたり、刑事事件として起訴されたりするとは限りません。
早い段階で被害者との示談交渉を進めておけば、在宅事件としての処理で逮捕を回避できたり、検察官が不起訴と判断して刑罰・前科を回避できたりする可能性があります。

もし不注意で自転車事故を起こしてしまったら、お早めに、ベリーベスト法律事務所にご相談ください
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、示談の成立や不起訴を目指して、全面的にサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています