【企業担当者向け】試用期間中も社会保険は必要? 罰則の有無も解説
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試用期間中の労働者であっても、一定の要件を満たす場合は社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入させる義務があります。
企業としては、社会保険の適用要件を確認して、正しく加入の届け出などを行うことが大切です。
本コラムでは、試用期間中の労働者の社会保険加入の要否や、社会保険について会社が注意すべきポイントなどをベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士が解説します。
1、試用期間の労働者についても、社会保険への加入は必要か?
社会保険の適用事業所では、フルタイムで働く労働者と一定の要件を満たす短時間労働者を、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入させる義務があります。
社会保険への加入義務の有無は、労働者が試用期間にあるか否かによっては左右されません。
したがって、試用期間中の労働者についても、加入義務の要件を満たす場合には、労働契約(雇用契約)の開始日から社会保険へ加入させる必要があります。
また、社会保険料の負担は、使用者と労働者の折半になります。
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(1)社会保険の加入条件
社会保険加入条件は以下の通りです。
- 常時雇用されている従業員
- 週の所定労働時間が常時雇用されている従業員の4分の3以上かつ1ヵ月の所定労働日数が常時雇用されている従業員の4分の3以上である者
なお、法人には社会保険への加入が義務付けられています。そのため原則、株式会社、有限会社、NPOなどの法人は営利・非営利問わず社会保険に加入しなければなりません。常時使用する従業員がひとりであっても、社会保険には加入しなければなりません。
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(2)パート・アルバイトの加入条件
令和4年(2022年)10月からは、従業員数101人以上の企業で働いているパートやアルバイトの従業員も、以下のすべてを満たす場合には、社会保険の加入対象となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2か月を超える雇用の見込みがある(フルタイム従業員と同様)
- 学生ではない
※令和6年(2024年)10月からは、従業員数51名以上の企業まで拡大されることになっています。
2、社会保険への加入が不要となる場合
社会保険への加入要件を満たしていない労働者については、試用期間中であるか否かを問わず、使用者は社会保険に加入させる義務を負いません。
具体的には、以下のいずれかに該当する場合は、労働者を社会保険へ加入させることが不要とされています。
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(1)社会保険の適用事業所でない場合
社会保険への加入対象となるのは、社会保険の適用事業所に勤務する労働者のみです。
社会保険の適用事業所には、「強制適用事業所」と「任意適用事業所」の二種類があります。① 強制適用事業所
法人の事業所は、すべて強制適用事業所にあたります。
また、農林漁業・サービス業などを除く個人の事業所であって、従業員常時5人以上いるものも強制適用事業所となります。
② 任意適用事業所
以下の要件をすべて満たす事業所が、任意適用事業所にあたります。- 強制適用事業所ではないこと
- 従業員の半数以上が適用事業所となることに同意したこと
- 事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けたこと
上記のとおり、法人の事業所はすべて強制適用事業所ですが、個人の事業所は社会保険の適用事業所にあたらないこともあります。
社会保険の適用事業所ではない場合には、労働者を社会保険に加入させる必要はありません。 -
(2)除外事由に該当する場合
社会保険の適用事業所では、原則として、フルタイムで働く労働者は社会保険への加入義務の対象となります。
また、勤務時間および勤務日数が常時雇用者の4分の3以上であれば、フルタイム扱いとなります。(例)
常時雇用者の1週間の所定労働日数が5日、所定労働時間が40時間の場合
→1週間の所定労働日数が4日以上、所定労働時間が30時間以上であればフルタイム扱い
ただし、フルタイムで働く労働者であっても、以下のいずれかの除外事由に該当する場合は例外的に社会保険(ここでは健康保険の例を挙げます)の適用対象となりません。
- 日雇い労働者(1か月を超えて引き続き使用される場合を除く)
- 雇用期間が2か月以内の人
- 所在地が一定しない事業所に使用される人
- 4か月以内の季節的業務に使用される人
- 6か月以内の臨時的事業の事業所に使用される人
- 船員保険の被保険者
- 国民健康保険組合の事業所に使用される人
- 後期高齢者医療制度の被保険者(健康保険ではなく、後期高齢者医療制度に加入する)
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(3)短時間労働者であって、適用要件を満たさない場合
勤務時間または勤務日数が常時雇用者の4分の3未満の労働者は、「短時間労働者」として扱われます。
短時間労働者を社会保険に加入させる義務を負うのは、「特定適用事業所」と「任意特定適用事業所」のみです。① 特定適用事業所
短時間労働者を除く被保険者の総数が常時100人を超える事業所が、特定適用事業所にあたります。なお2024年10月以降は、ボーダーラインが「常時50人を超える事業所」と引き下げられ、特定適用事業所の範囲が拡大される予定です。
② 任意特定適用事業所
以下の要件をいずれも満たす事業所が、任意特定適用事業所にあたります。- 特定適用事業所ではないこと
- 労使合意に基づき、短時間労働者を社会保険の適用対象とする旨を申し出たこと
特定適用事業所・任意特定適用事業所のいずれにも該当しない事業所では、短時間労働者を社会保険に加入させる必要はありません。
さらに、特定適用事業所・任意特定適用事業所において、社会保険の適用対象となる短時間労働者は以下の要件をすべて満たす者のみです。- 1週間の所定労働時間が20時間以上あること
- 所定内賃金が8.8万円以上であること
- 学生でないこと
上記の要件をひとつでも満たさない短時間労働者については、特定適用事業所・任意特定適用事業所であっても、社会保険に加入させる義務を負いません。
3、試用期間中の労働者を社会保険に加入させない会社の罰則
適用対象の労働者を社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入させることは、使用者に課された法律上の義務です。
事業主が正当な理由なく、労働者が社会保険の加入資格を取得した旨の届け出を行わなかった場合、「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」に処される可能性があります(健康保険法第208条第1号等)。
刑事罰の対象になれば、事業の運営に支障が生じるほか、会社としての評判が低下してしまうおそれもあります。
また、調査の結果、過去に遡って違法が明らかになった場合には、過去2年間の追徴金をまとめて支払うよう命じられる可能性があります。
たとえ試用期間中の労働者であっても、要件を満たせば社会保険の適用対象になることを正しく理解して、適切な労務管理を行うようにしましょう。
4、社会保険について会社が注意すべきポイント
以下では、社会保険の整備に関して、経営者や担当者がとくに注意すべきポイントを解説します。
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(1)労働者本人が希望しなくても、社会保険に加入させる必要がある
労働者を社会保険に加入させる必要があるかどうかは、法律によって厳密にルールが決まっています。
仮に労働者本人が社会保険への加入を希望せず、「国民健康保険と国民年金でよい」などといったとしても、会社の社会保険に加入させる義務が免除されることはありません。
本人の意思にかかわらず、要件を満たす労働者は社会保険に加入させなければならないのです。
会社としては、すべての労働者について社会保険の加入要否を正確に把握したうえで、加入は法律上の義務であることを各労働者に周知するなどの対応をとることも必要になります。 -
(2)社会保険が整備されていない職場は、人材確保に苦労する
社会保険が整備されている職場とそうでない職場を比較すると、前者に比べて後者は労働者の待遇面で見劣りすることになります。
健康保険(協会けんぽなど)と国民健康保険を比較すると、前者の方が後者よりも保障内容が全体的に手厚いといえます。
また、厚生年金保険加入者とそうでない人(国民年金だけの加入者)を比較すると、前者の方が後者よりも、将来もらえる年金額がかなり多くなるのです。
さらに、保障内容や年金額の違いに加えて、社会保険は保険料の半額が会社負担であることも、労働者にとっては大きなポイントです。
国民健康保険と国民年金は、保険料が全額本人負担となるため、社会保険よりも労働者にとっての負担が大きくなります。
このように、社会保険が整備されているか否かによって、労働者の待遇には大きな差が生じます。
強制適用事業所は当然のこと、強制適用事業所ではない事業所でも、優秀な人材を確保するためには社会保険の整備を検討すべきでしょう。 -
(3)社会保険の整備はコンプライアンス上も重要
近年では、強制適用事業所であるにもかかわらず社会保険が未整備となっている事業所の取り締まりや指導が盛んに行われています。
労働者を社会保険に加入させる義務を怠ると、事業主が刑事罰の対象となるほか、発覚した際には企業としての評判が低下するおそれもあります。
ここまで強調してきたように、労働者を社会保険に加入させることは、会社に課された法律上の義務です。
コンプライアンスを強化して、健全かつ安定した会社運営を行うためにも、社会保険は法律にしたがってきちんと整備しましょう。
5、まとめ
採用した労働者を社会保険に加入させる必要があるかどうかは、試用期間中か否かによっては左右されません。
フルタイム労働者と短時間労働者のそれぞれについて、所定の要件を満たす場合には、試用期間中であっても社会保険加入が必要になります。
労働者を社会保険に加入させる義務を怠ると、事業主は刑事罰に問われるほか、社会からの信用を失ってしまうおそれがあります。
事業の運営や経営上のリスクを回避するために、法律にしたがって適切に人事労務管理を行うことが大切です。
ベリーベスト法律事務所は、人事労務管理に関する実務相談を承っております。
企業を経営されている方や人事・労務を担当されている方で、わからないことや心配事がある場合には、まずはベリーベスト法律事務所 川越オフィスにご連絡ください。
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