年俸制で休日出勤した場合、休日手当(割増賃金)を支払う必要はある?
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一般的な企業では、給料の支払い方法として月給制を採用しているところが多いでしょう。しかし、近年では、労働者の成果に応じて給料を決めることを目的とする「年俸制」を採用する企業も増えてきています。
年俸制を採用すると、1年ごとに決められた給与総額を月割りにして毎月支払われることになります。そして、このような年俸制を採用している企業の経営者・担当者の中には、「残業手当や休日手当も年俸にすべて含まれている」と考えている方もいらっしゃるのではないかと思います。しかし、実際には、残業手当や休日手当は必ずしも年俸のなかに含まれているとは限りません。
年俸制は、さまざまな点で月給制とは異なる制度であるため、手当の扱いも含めて、制度の概要をよく理解しておく必要があります。本コラムでは、年俸制で休日出勤をした場合における休日手当の扱いについて、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士が解説します。
1、年俸制の労働者が休日出勤した場合の残業代
経営者のなかには、「年俸制を採用すれば休日出勤をしても休日手当の支払いが不要になる。」と考えている方もいるようです。
しかし、年俸制だからといって、常に休日手当の支払いが不要になるというわけではありません。
基本的には、年俸の中に休日手当は含みません。
年俸制が採用されていたとしても、月給制の労働者と同様に、労働基準法が適用されることになるのが原則です。そのため、会社は、労働者が休日出勤をした場合には、法定の割増率によって増額した割増賃金を支払わなければならないのです。
ただし、労働者が労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合には、労働時間、休憩、休日に関する労働基準法の適用はなくなります。
したがって、管理監督者が休日出勤をしたとしても、休日手当を支払う必要はありません。
2、正しく理解しておきたい年俸制の基本
年俸制が採用されている場合であっても、休日出勤をした場合には、休日手当の支払いが必要になります。
年俸制を採用する際には、制度の概要をしっかりと理解しておく必要があります。
以下では、年俸制についての基本的事項について解説します。
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(1)年俸制とは
年俸制とは、年間の賃金総額や支払方法をあらかじめ労使で合意しておく制度です。
具体的には、個人の能力や成果などに基づいて、翌年度に支払う給与総額を決めていくことになります。
このように、年俸制は、労働者個人の成果に基づいて処遇を決める成果主義になじみやすい給与形態となっています。
年俸制を採用することによって、企業としては、事前に年間の人件費総額を確定することができます。そのため、中長期的な経営計画を立てやすくなるという面があると思われます。
また、成果主義人事とともに年俸制を採用することによって、労働者のモチベーションが向上し、生産性の向上や業績の改善も期待ができます。 -
(2)年俸制における給与の支払い方法
「年俸制であれば、給与の支払いは年1回でよい。」と考えている経営者も、少なくありません。
しかし、労働基準法では、賃金を毎月1回以上、一定の期日を定めて支払いをしなければならないと定められています。
したがって、年俸制であっても、月給制と同様に毎月賃金を支払う必要があります。
年俸制が採用されている企業では、例えば、以下のような支払い方法がとられるのが一般的です。- 年俸を12分割して、毎月1回支給する方法
- 年俸を14分割して、12回分は毎月の給料として、2回分を賞与として支給する方法
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(3)年俸制における時間外労働の考え方
年俸制が採用されていても、労働基準法は適用されます。
そのため、休日出勤をした場合の休日手当と同様に、時間外労働をした場合には残業時間に応じて残業手当の支払いが必要になります。
年俸部分に残業手当を含めて支払うことも可能ですが、その場合には、年俸のうちどの部分が残業手当であるかを明確にする必要があります。そして、実際の残業時間がその額を超過した場合には、別途不足分の残業手当を支払わなければいけません。
なお、休日出勤の場合と同様に、労働者が労働基準法上の管理監督者にあたる場合には、残業をしたとしても残業手当の支払いは不要になります。
3、年俸制における割増賃金の計算方法
上記で説明した通り、年俸制が採用されている場合でも、休日手当や残業手当といった割増賃金の支払いが必要になります。
以下では、年俸制における割増賃金の計算方法を解説します。
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(1)割増賃金の計算方法
年俸制が採用されている場合であっても、月給制の場合と同様に、以下のような計算式によって割増賃金を計算することになります。
- 割増賃金=1時間あたりの賃金額×残業時間×割増率
割増賃金の割増率については、法律上一定の割合以上にすることが求められており、時間外労働の場合には25%以上、休日労働の場合には35%以上の割増率にしなければなりません。
また、1時間あたりの賃金額は、以下のような計算式で算出します。- 1時間あたりの賃金額=月額賃金÷1年間における1カ月の平均所定労働時間
- 1年間における1カ月の平均所定労働時間=1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12
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(2)割増賃金計算の際の注意点
1時間あたりの賃金を計算する際の月額賃金には、以下のような手当は含まれません。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
賞与は、通常は、上記の除外対象となる手当のうち「1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当します。
しかしながら、年俸制の場合、賞与として支払われている部分を割増賃金算定の基礎賃金から除外してよいかどうかは注意が必要です。
通達では、年俸総額を12で割って月ごとに支払っている場合は、「月給」である12分の1の額が基礎賃金の算定の根拠となり、12以上、例えば16で割って16分の1を「月給」として、残りの16分の4を特定の月に賞与名目で支払っている場合でも、年俸総額の12分の1が基礎賃金となるとしています。
すなわち、この場合の年俸者の賞与は、支給額があらかじめ確定しており、「臨時に支払われた賃金」及び「1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金」のいずれにも該当しないので割増賃金の算定基礎から除外されません。
4、年俸制を取り入れる企業が注意するべき点
以下では、年俸制を取り入れる際に企業が注意するべき点について解説します。
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(1)年俸制度を正しく理解する
「年俸制を採用していれば、残業代や休日手当の支払いが不要になる。」と、誤って理解している経営者は多くいらっしゃいます。
このような誤解をしていると年俸制を採用した労働者との間でトラブルが生じるおそれがあります。
そのため、年俸制度を取り入れる際には、制度の概要を正しく理解することが大切です。
年俸制度を正しく理解するためには、専門家である弁護士のアドバイスが不可欠となります。
企業の実情に応じた年俸制度を採用するためにも、弁護士と相談をしながら制度設計を進めていくようにしましょう。 -
(2)人事評価制度を整備する
年俸制を導入する場合には、成果主義人事も同時に採用することが一般的です。
ただし、年俸制では、基本的には年1回しか給与の改定が行われません。
そのため、年俸の改定基準が曖昧だったり、主観的な人事評価が行われたりする場合には、労働者から不満が出てくること可能性もあります。
年俸制を採用する場合には、客観的かつ公平な評価を行うことができるようにするためにも、人事評価制度を整備することが大切です。
人事評価制度は、企業の実情に応じてさまざまなものが考えられます。
最適な人事評価制度を選択するために、弁護士からアドバイスを受けてみましょう。 -
(3)不利益変更により無効にならないように注意
月給制から年俸制に変更すると、変更後のほうが労働条件の内容が不利になってしまう労働者も出てくる可能性もあります。
不利益変更であったとしても、労働者の個別同意があれば問題はないですが、個別同意がない場合には、変更後の内容が合理的なものでなければ、無効であると判断される可能性があります。
就業規則の変更が合理的なものであるかどうかについては、法的判断を含む総合的な判断となります。
就業規則の変更により新たに年俸制度を導入する場合にも、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。 -
(4)労働条件を明確にする
賃金の決定などに関する事項は、絶対的明示事項とされています。
したがって、労働者との間で労働契約を締結する際には、書面によりその内容を明示する必要があります(労働基準法15条)。
給与体系を月給制から年俸制に変更する場合には、賃金の決定などに関する事項が変更されることになります。
そのため、変更後の内容はできる限り書面で明確にしておくようにしましょう。
5、まとめ
以上のように年俸制度を導入することには、メリットもありますが、採用する際には、この制度の概要をしっかりと理解しておくことが必要です。勤怠管理をしっかり行い、残業手当や休日手当の未払いが生じないように注意する必要があります。
年俸制度の導入を検討されている経営者の方は、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています