AI画像生成をビジネスに利用する前に理解しておくべき、著作権の問題
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最近ではAIのめざましい発達によって、簡単な指示などによって手軽に画像を生成することができるようになりました。また、AIにより生成される画像は、人による創作物と変わらない、ビジネスで十分利用できるような水準のものになってきています。
ただし、AIによって生成された画像に関するビジネスに利用する際には、「著作権」を始めとする法的な問題についてしっかり理解しておくことが重要になります。
本コラムでは、AIによって生成された画像に関する著作権等の問題について、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士が解説いたします。
1、AIによる画像生成の基本的な仕組み
AIによる画像生成は、大きく分けて、以下の四つの段階を経て生成されます。
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<AIの開発、学習段階>
- ① AIが大規模な言語モデルを学習する段階
- ② ファインチューニングをする段階
- ③ プロンプトを入力する段階
- ④ 成果物のアウトプットを利用する段階
<AIによる生成・利用段階>
①の段階では、AIに対して著作物など含む大量のデータを読み込ませて、AIを学習させるものです。
この段階は、通常はAIの開発会社が行います。
②の段階は、①によって学習した大規模言語モデルの一部と新たに追加したモデルの一部を活用することで微調整を行うものです。この時にも、著作物などのデータをAIに学習させます。
③の段階からは、通常のユーザーが利用する場面となります。プロンプト(AIへの指示文)を入力するは文字だけはなく、画像などの著作物を利用してプロンプトを入力することもあります。
④のアウトプットは、③の結果、AIが作成した画像を利用する段階です。
①と②は、AIの開発、学習段階で、③と④はAIによる生成・利用段階となります。
AIと著作権の問題では、AIの開発・学習段階で著作物を大量に読み込ませますので、そのような著作物の利用が著作権の侵害が問題になることもあります。
しかし、以下では、AIを活用して画像を生成した段階、およびAIが生成した利用する段階(③・④)において発生する問題をとりあげます。
2、AIによる生成物は「著作物」にあたるか?
著作権の対象となる著作物とは、「①思想又は感情を②創作的に③表現したものであって、④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1項第1号)をいいます。
以下では、AIを利用して生成された画像は著作物にあたるかどうかについて解説します。
AIが自律的に創作し生成した画像は、「①思想又は感情を②創作的に③表現したもの」には該当せず、著作物にはならないと考えられています。
たとえば、人が何らの指示を与えることなく単に生成のボタンを押すだけでAIが生成したものなどの場合です。
「①思想又は感情を②創作的に③表現したもの」に該当するかどうかは、人の「創作意図」があるかどうか、人が「創作的寄与」と認められる行為をしたかどうかによって判断されます。
しかし、AIが自律的に作成した画像は、これらの創作意図や創作的寄与が認められないのです。
3、AIを利用した生成物に著作権が発生する場合
AIが自律的に創作し生成した画像は、「①思想又は感情を②創作的に③表現したもの」には該当せず、著作物にはなりませんが、AIを利用した生成物に著作権が発生する場合はあります。
具体的には、人が思想や感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認めることができれば、著作物に該当し、AIの利用者が著作者となるのです。
「道具」として使用するというのは、音楽家がピアノなどの楽器を使用して楽曲を作成した場合には、その楽曲は著作物になるのと同様に、AIを表現の道具として使用することを意味します。
そして、このように道具としてAIを使用したかどうかも、人の「創作意図」があるかどうか、人が「創作的寄与」と認められる行為をしたかどうかによって判断されます。
「創作意図」とは、思想または感情を、ある結果物として表現しようとする意図を指すものと考えられています。
画像などの生成のためにAIを使用する事実としての行為から通常は創作意図があったものと推認できると考えられています。
「創作的寄与」が認められるかどうかは、個別の事情をふまえながら、AIを使用する一連の過程を総合的に評価や判断をする必要があるのです。
4、AIが生成した画像を使用することで起こる、第三者に対する著作権侵害
AIが生成した画像をSNSで宣伝のためにアップロードしたり、イラスト集を販売したりするなどの方法で利用すると、第三者の著作権を侵害してしまう場合があります。
著作権侵害があった場合には、民事上は差止請求が可能となります。
さらに著作権侵害について故意または過失がある場合には、著作権者に生じた損害の賠償を請求することができます。
また、刑事罰の対象にもなりえます。
他人の著作権を侵害したかどうかの判断は、AIによる生成だからといって特別な要件で判断されることはなく、通常の著作権侵害の判断基準と同じように、①「類似性」の有無および②「依拠性」の有無によって判断されることになります。
① 類似性
類似性は、原著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるか、によって判断されます。本質的な特徴には、単純な事実の記載であることや、ありふれた表現、アイデア(作風・画風)などは含まれていません。
② 依拠性
既存の著作物に接して、それを自己の作品の中に用いているかどうかによって判断されます。つまり、独自の創作でないような場合が該当します。
ある創作物が、先人の著作物と結果的に同一あるいは類似であっても、先行著作物に依拠することなく独自に創作されたものである場合には、先行著作物の存在を知らなかったことにつき過失があったとしても、依拠性は否定されることになります。
このような依拠性は、知っていたという主観的な要素それ自体の立証は困難であるため、以下のような事実に基づきながら総合的に判断されます。
- 全体的に類似しているか否か(先行する著作物を知らなければ通常はできない程度に類似しているか)
- 先行著作物が一般に流布されていたか(著名性、有名性の程度)
- 後行著作物の作成者が先行著作物を当然に知り得る立場にあったか
- 誤字・トラップ・無意味の記載が取り込まれているか
依拠性については、AIによる生成物に特有の問題が存在します。
AIの開発過程では、開発会社によって著作物など大量のデータを収集分析して学習します。すると、AIを利用し作成された画像は、利用者が知らないうちに、学習されて取り込まれた著作物を参考に生成されているため、結果的にもとの著作物と非常に類似した画像がでてしまうことがあるのです。
このような場合にも依拠性は認められるのか否かについては、法律的にもまだ議論の渦中です。
具体的には、以下のような見解が唱えられています。
- 依拠性肯定説:学習用データに原著作物が含まれてさえいれば依拠性を認める見解。
- 依拠性否定説:著作物がAIのパラメータに断片化されているのであれば、いわばアイデアとして利用しているにすぎず、依拠性は否定されると考える見解。
- 類似性判断説:侵害の成否は依拠性ではなく類似性によって判断するという見解。
- パラメータ生成寄与説 :原著作物が、パラメータの生成に寄与し、そのパラメータに基づいて生成物が作成されているのであれば、依拠性を認めるという見解。
依拠性は自己の作品に用いられているかどうかを個別的に判断すべきものであるため、大ざっぱな基準で依拠性を判断しようとする依拠性肯定説や否定説は説得的ではないと考えられます。
また、類似性判断説は依拠性要件を失わせしめるものであるため、妥当ではないでしょう。したがって、AI生成物を生成物のパラメータに寄与しているかどうかに着目するパラメータ生成寄与説が、現時点ではもっとも穏当な見解だと考えられます。
5、AI画像生成をビジネスに利用する前に、弁護士に相談
前述のとおり、著作権侵害が認められる場合には、差し止め請求や損害賠償請求をされる可能性があります。
さらに、著作権侵害は刑事罰の対象にもなりえる行為であるため、安易な判断によってAI生成画像をビジネスに利用するのは非常にリスクが高い行為といえます。
AIによる画像生成をビジネスに利用することを検討されている方は、想定している利用方法が著作権を侵害する可能性があるかどうかを確かめるために、ビジネスを開始する前に、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
6、まとめ
近年では、AIのめざましい発達によって、AIに簡単な指示を与えるだけであったとして、商業的に利用できそうな水準での画像を生成することが可能となっています。
しかし、AIによる画像生成には、予期せぬ著作権侵害のリスクが含まれているのです。
ベリーベスト法律事務所では、企業法務や著作権に関する法的問題について、豊富な取り扱い経験や解決実績があります。また、ベリーベスト法律事務所では顧問弁護士サービスも提供しており、AI生成画像を用いたビジネススキームの構築や契約書審査などについても、企業のニーズに沿ってお気軽に利用していただくことが可能です。
企業の経営者で、AI生成画像をビジネスに利用することをお考えの方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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