小説や絵画などの著作権は相続財産となるのか? 詳しく弁護士が解説
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関東信越国税局による相続税の申告事績の概要によると、川越税務署管内で平成30年に亡くなった方のうち相続税の課税対象となった被相続人の人数は、834人でした。
遺産には、現金や不動産以外にも著作権が含まれることがあります。そして、生前に被相続人が小説や絵画などを制作していた場合には、著作権を相続する可能性もあるのです。著作権の相続については、通常の遺産の相続と異なる配慮が必要になることが多いため、事前に十分に理解しておくことが重要になります。
本コラムでは、小説や絵画などの著作権を相続する際の注意点について、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士が解説します。
1、著作権は相続の対象となる
まず、「著作権」とは具体的にはどのような権利であるのか、著作権のうち相続の対象になるのはどのような権利であるかについて、概要を解説いたします。
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(1)著作権とは
著作権とは、著作物を創作した著作者に与えられる、複製権などの独占的権利の総称です。
著作権は、「権利の束」と表現されることがあります。「著作権」という名称がつけられた単体の権利があるというよりも、さまざまな種類の権利が集まったものの総称が「著作権」である、と考えた方がよいでしょう。
原則的に、著作権に含まれる権利は、著作権法に規定されています。その種類は、「著作者人格権」と「著作財産権」に分けることができます。著作者人格権と著作財産権の具体的内容は、以下のとおりになります。
① 著作者人格権公表権(著作権法18条) 著作物を公表するか否か等を決定する権利 氏名表示権(著作権法19条) 著作物を公表する際に著作者名を表示するか否か等を決定する権利 同一性保持権(著作権法20条) 著作物やそのタイトルを意に反して改変されない権利 名誉声望保持権(著作権法113条11項) 著作者の声望や名声を害する方法によって著作物を利用されない権利
② 著作財産権
複製権(著作権法21条) 著作物を印刷、写真撮影、コピー機による複写などで著作物を複製する権利 上演権・演奏権(著作権法22条) 演劇のように、著作物を多くの人に見せたり聴かせたりする権利 上映権(著作権法22条の2) DVDなどで収録された著作物(絵画、映画、写真など)を、多くの人に見せるために上映する権利 公衆送信権(著作権法23条1項) 著作物を公衆に送信する権利 公の伝達権(著作権法23条2項) 著作物を公衆に伝達する権利 口述権(著作権法24条) 著作物を朗読などで多くの人に伝える権利 展示権(著作権法25条) 著作物を多くの人に見てもらうために展示する権利 頒布権(著作権法26条) 劇場型映画などを販売したり、貸したりする権利 譲渡権(著作権法26条の2) 映画以外の著作物や複製物を多くの人へ譲渡する権利 貸与権(著作権法26条の3) 映画以外の著作物やその複製物を多くの人へ貸し出しする権利 翻訳権・翻案権(著作権法27条) 著作物を翻訳、翻案などを施し、二次的著作物を制作する権利 二次的著作物の利用権(著作権法28条) 自分の著作物を原作とする二次的著作物の利用について原作者が持つ権利 -
(2)相続の対象となるのは「著作財産権」
民法では、ある人(被相続人)が死亡した場合、相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を相続することになります。しかし、被相続人の一身に専属したものは相続の対象となりません(民法896条)。
著作権のうち、著作財産権については、財産的な権利であるため相続の対象となります。
これに対して、著作者人格権は、財産的な権利ではなく、著作物に関する著作者の人格的利益を保護する権利です。著作者の人格はその人固有のものですので、相続の対象とはなりません(著作権法59条)。
ただし、著作者の人格的な利益は、著作者の死亡後も一定の範囲で保護されます。著作権法60条では、ある著作物の著作者が死亡したあと、もしその著作者が生存していると仮定した場合にその著作者の人格権を侵害するであろう行為を原則としてしてはならないとされているのです。
2、著作権を相続するには、どうすればいい?
先述したように、著作権のうち、著作財産権については相続の対象となります。
著作財産権を相続するための具体的な方法について、解説いたします。
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(1)相続する方法
著作財産権は、他の財産権と同様に、被相続人の死亡によって、相続人に帰属することになります。そのため、「著作財産権を相続すること」自体には、特別の手続きは必要ありません。
著作権を相続人が単独で取得した場合には、問題はとくに生じません。一方で、相続人が複数いる場合には、著作権を数人が共有する状態になり(民法264条)、原則として、共有(民法249条以下)の規定が準用されます。しかし、著作権は、不動産などのほかの遺産と比べて一体的に行使する必要性が高い権利です。そのため、著作権法では、「共有著作権」として特別の規定が設けられています(著作権法65条)。
具体的には、著作権の共有者は、他の共有者全員の同意を得ない限り、その持ち分を譲渡したり、質権契約の目的にしたりすることができないとされています(相続や、会社の合併などの一般承継は除きます)。また、自ら利用するような場合であっても、原則として他の共有者全員の同意を得る必要があるのです。 -
(2)第三者に対抗するためには登録が必要
民法改正により、相続財産を法定相続分以上に承継する場合、その旨を登記しなければ、第三者に持ち分を対抗することができなくなりました。これに伴い、著作権法も同じように改正され、相続時に法定相続分を超える著作権等を承継する場合、第三者に対抗するためには登録が必要とされるようになったのです(著作権法77条1号)。
3、相続人がいない場合、著作権や印税は?
一般的には、帰属する先のない財産は、国庫に帰属します。
しかし、「著作権」という権利が認められているのは、「文化の発展に寄与する目的で、著作者の権利を保護する」という目的のためです。つまり、国に著作権を帰属させること自体、著作権の本来の趣旨に馴染むものではありません。それよりも、帰属する先のない著作権は広く国民に利用させる方が、文化の発展向上という著作権法の趣旨に合致するものと考えられます。
上述の理由から、相続人がいない場合には、著作権は国庫に帰属するのではなく、消滅するものとされています(著作権法62条1項1号)。これにより、著作権が消滅した著作物は、誰でも自由に利用することが可能になるのです。この状態は「公有」や「パブリックドメイン」と呼ばれます。
4、著作物の保護期間について
著作権については、「保護期間」がもうけられており、著作者の死後70年間は著作権が存続することになります(著作権法51条2項)。
なお、70年の保護期間の始期は、被相続人が死亡した日の翌年の1月1日からとされています(著作権法57条)。死亡した翌日から始期が計算されるわけではないことに、注意してください。
5、まとめ
このように、著作権も、相続の対象となります。相続の対象となるということは、相続にあたって相続税が発生する可能性がある、ということです。
相続税を計算する際には、専門的な知識が必要になりますので、詳しい見積もりや計算(評価方法、評価倍率、財産評価)などは専門家に相談をすることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所グループには、弁護士だけでなく税理士なども所属しています。そのため、相続についても、法律面と税金面の両方からサポートをすることができるのです。
著作権の相続についてお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスにまで、お気軽にご相談ください。
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