寄与分を認めてもらうために必要なことは? 弁護士が手順や証拠を解説

2019年06月05日
  • 遺産を受け取る方
  • 寄与分
  • 証拠
寄与分を認めてもらうために必要なことは? 弁護士が手順や証拠を解説

遺言書が存在しても、裁判所の判断を仰がなくてはならないほど、判断が難しいのが遺産相続です。たとえば、平成14年、「相続させる」と明記された遺言があるにもかかわらず、遺産分割行儀を行い、遺言と異なった遺産分割がなされることになった案件について、さいたま地裁では「遺言があっても全員が異議なく、遺言にも遺言に反する遺産分割を禁ずると記載されていなければ、遺言と異なる遺産分割は否定しない」という判断を下しています。

特に、「寄与分」を主張する場合は、個人では手続きや証拠集めが難しいケースが多いので、寄与分を主張する際はきちんと仕組みを理解しておく必要があります。寄与分の意味、寄与分を主張するために必要な証拠や手続きの方法などについて、ベリーベスト弁護士事務所 川越オフィスの弁護士が、わかりやすく説明します。

1、寄与分って何?

寄与分とは、被相続人(相続財産を遺して亡くなった人)の財産が減らないように努力したり、増やすために貢献したりした人に特別に与えられる金額または割合のことをいいます。

通常の相続では、法定相続分や遺言書に従って財産を分配します。ところが、寄与分が認められた場合は、相続財産から寄与分を差し引いた上で、遺産を分配するので、他の相続人の取り分が減ることになり相続が「争い」に発展することも珍しくありません。

また、寄与分が認められたとしても、寄与分をどう金銭的に評価するかも争いの元です。相続人同士で寄与分について話し合っても話がまとまらないことが多く、その場合は弁護士に依頼したり、家庭裁判所に調停を申し立てたりする必要があります。

2、寄与分が認められるケース、認められないケース

  1. (1)寄与分の5類型

    寄与分は下の5種類に分類されています。
    寄与分が認められるのは、寄与行為によって被相続人の財産が維持されたり増加したりした場合です。維持は、被相続人の財産の減少を防止した行為も含みます。

    寄与分の5類型
    1. ①被相続人の療養看護を行い、医療費や看護費用等の支出を免れた場合……療養介護型
    2. ②被相続人の営む事業に、無報酬またはそれに近い状態で従事した場合……事業従事型
    3. ③被相続人やその事業に対し、財産上の給付をした場合……財産出資型
    4. ④特定の相続人のみが被相続人を扶養し、その生活費等の支出を免れた場合……扶養型
    5. ⑤被相続人の財産を管理し、財産の維持形成に貢献した場合……財産管理型


    いずれも、相続人が、被相続人に貢献することで相続財産を維持したり、増加させたりしています。寄与分が認められるためには、「特別の寄与」でなければならないので、寄与に対する報酬を得ていないことや被相続人との家族関係において通常期待される程度を超える寄与であることが必要です。また、寄与行為が相当期間に及び、専従性がある場合にも「特別の寄与」と認められやすくなります。

  2. (2)寄与分が認められないケース

    寄与分が認められるかどうかは個別具体的な判断になりますので、「この要件を満たせばOK」といった明確な基準はありません。しかし、前述のとおり「特別の寄与」である必要がありますので、夫婦間の協力扶助義務や直系血族、兄姉弟妹間の扶助義務といった法律上の義務の範囲内といえるような程度の貢献では寄与分は認められない可能性が高いでしょう。

3、寄与分が認められる権利者とは

寄与分は、誰にでも認められる訳ではありません。「法定相続人」だけに認められています。したがって、「遠縁のおばあちゃんの面倒をみていた法定相続人ではない人」や、「血縁がない面倒見の良い近所の人」はいくら特別に貢献していても寄与分は認められないのです。

ただ、法定相続人ではない「息子の妻」や「娘の夫」などに特別な貢献が認められた場合には、息子や娘が貢献したものとみなして、息子や娘に寄与分が認められる可能性はあります。たとえば、「長男の嫁が要介護状態の被相続人を献身的に介護した」ケースなどが該当するでしょう。

民法で定められている法定相続人は次のとおりです。

  • 常に相続人になる……配偶者
  • 第1順位……子または代襲相続人
  • 第2順位……両親などの直系尊属
  • 第3順位……兄弟姉妹または代襲相続人


たとえば、配偶者と子どもがいる男性が亡くなった場合、相続人として認められるのは、配偶者と子どもだけです。両親や兄弟姉妹は相続人ではないため、いくら両親や兄弟姉妹が特別な貢献をしていても、寄与分は認められません。

4、もらえる寄与分の目安は

寄与分は、寄与の時期、寄与の方法および程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定めるとされています。算定の方法も、相続財産全体に占める寄与分の割合を定める方法、寄与分に相当する金額を定める方法および相続財産のうち特定物を寄与分と定める方法があります。寄与分を具体的な金額として算出できるのであれば、それがひとつの目安にはなりますが、最終的には、前述のとおり、寄与の時期、寄与の方法および程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定めることとなります。

5、寄与分を主張したい場合に必要な証拠と手順

寄与分を主張したい場合、まずは、遺産分割協議において寄与分に関する主張を行います。遺産分割協議とは相続人同士の話し合いなので、弁護士などに依頼しなくてもすることができます。遺産分割協議で話がまとまらない場合は、家庭裁判所での調停に移行します。調停では、調停委員が各相続人の話を聞いた上で解決案などをアドバイスしてくれますが、それでも話がまとまらない場合は審判になります。

これが、寄与分を主張する際の一般的な流れです。寄与分を主張するために重要なのは、寄与分を証明する「証拠」です。客観的に、「特別の寄与」をしたことがわかる資料を用意する必要があります。

各ケースで必要となる証拠の例がこちらです。

  • 療養介護型……被相続人の診断書、要介護認定の書類、介護日誌
  • 事業従事型……タイムカードなどの勤怠状況がわかるもの
  • 財産出資型……財産上の給付をしたことがわかるもの(通帳の写しや登記簿など)
  • 扶養型……仕送りをしたことがわかる送金履歴など
  • 財産管理型……相続人が管理業務に従事していたことがわかるもの(メールや手紙のやりとりなど)

6、平成30年の民法改正で寄与分はどう変わる?

平成30年の国会に民法改正案が提出され、寄与分についても法改正が行われました。この法改正により、これまでは、特別な貢献をしていても寄与分が認められなかった法定相続人でない親族も、「特別寄与者」として寄与分を主張することができるようになります。

先ほどお話ししたように、これまでは、法定相続人以外は、特別な貢献があっても寄与分は認められませんでした。しかし、改正案が施行されれば「特別寄与者」として認められることになります。たとえば、「息子の嫁」が献身的に義理の親を無償で介護したような場合に、寄与分が認められるようになるということです。

この新しい制度の施行日は、令和元年7月1日とされています。詳しくは弁護士に確認しておくことをおすすめします。

7、まとめ

相続の際に寄与分を主張することは、被相続人に特別に貢献した法定相続人の正当な権利です。ところが、寄与分を主張することで相続分が減ってしまうため、他の相続人から異論を唱えられることが少なくありません。

また、寄与分の証拠集めや計算も個人で行うには煩雑となることが多いものです。寄与分をきちんと主張したければ、遺産相続に対応した経験が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 川越オフィスでは、寄与分主張の豊富な実績をもつ弁護士にご相談いただくことが可能です。必要に応じて、税理士などとも連携した対応が可能です。ひとりで悩まず、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています