交通事故後のフラッシュバック|後遺障害認定から慰謝料請求を行う方法
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埼玉県警察が公表している交通事故の統計資料によると、令和4年に埼玉県内で発生した交通事故(人身事故)の件数は、1万6576件でした。交通事故の件数は年ごとに減少していますが、それでも毎年一定数の死傷者が発生しています。
交通事故により強い恐怖や死の危険に直面すると、その後に交通事故の嫌な記憶が鮮明によみがえる等の体験をすることがあります。このような体験を「フラッシュバック」といいますが、交通事故によりフラッシュバックの症状があらわれた場合には、後遺障害が認定される可能性があります。
本コラムでは、交通事故によるフラッシュバックで認定される可能性のある後遺障害や慰謝料を請求する方法について、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスの弁護士が解説します。
1、交通事故後に起こりうるフラッシュバック
まず、交通事故後に起こることがあるフラッシュバックについて、どのような症状なのかを解説します。
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(1)フラッシュバックとは
フラッシュバックとはPTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼ばれる症状の一種であり、過去に強いトラウマ体験(心的外傷)があった場合に、後々になってそのときの嫌な記憶が急激かつ鮮明に思い出されることをいいます。
交通事故の被害に遭うと強い恐怖感や命の危険を感じる場合もあることから、そのような出来事がきっかけとなってPTSDを発症することがあるのです。 -
(2)PTSDの症状
PTSDの代表的な症状には、フラッシュバック以外にも以下のようなものがあります。
- 過覚醒……自律神経の乱れによる不眠、動悸(どうき)、集中力の低下
- 回避行動……つらい記憶を思い出すようなものを執拗(しつよう)に避けてしまう
- そう鬱(うつ)状態……ちょっとしたことで気分が落ち込んだり、怒り出したりする
上記のような症状が1か月以上続くようであれば、PTSDの可能性があります。
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(3)フラッシュバックの治療法
交通事故によりフラッシュバックの症状があらわれた場合には、精神療法が治療の中心になります。
フラッシュバックの症状があらわれたときは、早めに精神科や心療内科などPTSDの治療を実施している医療機関を受診して、治療を受けるようにしましょう。
2、後遺障害等級認定されうるPTSDの症状
交通事故によりフラッシュバックの症状があらわれた場合は、PTSDとして後遺障害が認定される可能性があります。
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(1)PTSDで後遺障害等級認定を受けるための要件
PTSDに後遺障害等級が認定されるためには、以下の要件を満たす必要があります。
【精神症状】
以下の精神症状のうち一つ以上が認められること- ① 抑うつ状態
- ② 不安の状態
- ③ 意欲低下の状態
- ④ 慢性化した幻覚・妄想性の状態
- ⑤ 記憶または知的能力の障害
- ⑥ その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)
【能力】
以下の能力のうち一つ以上の能力について、欠如や低下が認められること- ① 身辺日常生活(食事、入浴、更衣など)
- ② 仕事、生活に積極性・関心を持つこと
- ③ 通勤・勤務時間の順守
- ④ 普通に作業を持続すること
- ⑤ 他人との意思伝達
- ⑥ 対人関係・協調性
- ⑦ 身辺の安全保持・危機の回避
- ⑧ 困難・失敗への対応
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(2)PTSDで認定される可能性がある等級と認定基準
上記の要件を満たす場合、被害者に生じている症状の程度に応じて、以下のような後遺障害等級が認定されます。
① 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの(9級10号)
上記の【能力】の判断項目のうち②~⑧のいずれか一つの能力が失われている、または、判断項目のうち四つ以上に該当して、しばしば助言や援助が必要と判断される障害が残っている場合には、後遺障害等級9級10号に該当します。
② 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの(12級13号)
上記の【能力】の判断項目のうち、四つ以上に該当して、ときに助言や援助が必要と判断される障害が残っている場合には、後遺障害等級12級13号に該当します。
③ 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの(14級9号)
上記の【能力】の判断項目のうち、一つ以上に該当し、ときに助言や援助が必要と判断される障害が残っている場合には、後遺障害等級14級9号に該当します。
3、PTSDに基づく後遺障害が認定された場合の慰謝料
PTSDで後遺障害等級認定がされた場合には、以下のような慰謝料や損害賠償を請求することができます。
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(1)PTSDに基づく後遺障害が認定されたときの後遺障害慰謝料額
PTSDに基づく後遺障害が認定された場合には、認定された等級に応じた後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害慰謝料の算定基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準(弁護士基準)の三種類があります。
任意保険基準の金額は保険会社によって多少異なるため、以下では、自賠責保険基準および裁判所基準による後遺障害慰謝料額を紹介します。① 後遺障害等級9級- 自賠責保険基準……249万円
- 裁判所基準……690万円
② 後遺障害等級12級- 自賠責保険基準……94万円
- 裁判所基準……290万円
③ 後遺障害等級14級- 自賠責保険基準……32万円
- 裁判所基準……110万円
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(2)そのほかに相手に請求できる損害項目
交通事故の被害を受けた場合には、後遺障害慰謝料以外にも、以下のような損害に対する賠償を請求することができます。
① 治療費
交通事故によるケガや症状の治療に要した費用は、必要かつ相当な範囲で相手に請求することができます。
加害者が任意保険に加入している場合には、治療中の治療費は、通常は、加害者の保険会社から病院に直接支払われることが多いです。その場合は、被害者が負担する必要はなく、最終的には既払い金として控除されます。
② 通院交通費
病院への通院に交通機関を利用した場合は、基本的に実費相当額を請求できます。
自家用車を利用した場合は、通常は、1㎞あたり15円を通院交通費として請求できます。
タクシー代については、症状などにより、タクシー利用が相当とされる場合に限り請求できます。
③ 休業損害
病院への入通院で仕事を休んだ場合には、休んだ日数分の給料が減ってしまいます。
そのような減収分の損害については、休業損害として請求することができる可能性があります。
休業損害は、会社員など給料収入がある方以外にも、自営業者や専業主婦にも認められています。
④ 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
交通事故によりケガをした場合には、原則として入通院期間を基礎として、入通院慰謝料(傷害慰謝料)が請求できます。
後遺障害慰謝料と同じく入通院慰謝料にも自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準(弁護士基準)の三種類の基準があり、このうち裁判所基準がもっとも高額な基準となります。
⑤ 逸失利益
交通事故により後遺障害が生じてしまうと、日常生活にも支障が生じて、今までどおりに働くことができない可能性があります。
後遺障害により労働能力が低下してしまうと、将来にわたって収入の減少という不利益が生じてしまいます。
そのような不利益については、後遺障害逸失利益として相手に請求することができます。
4、事故の後遺障害について弁護士に相談したほうがいい理由
以下のような理由から交通事故によりフラッシュバックの症状があらわれた方は、後遺障害等級の認定や損害賠償請求を行う前に、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)PTSDを理由として後遺障害等級認定を受けるのは簡単ではない
骨折や捻挫などのケガとは異なり、物理的な損傷のないPTSDは、外形からは判断がすることができないため、PTSDの有無や症状の程度を証明することは困難とされています。
事故との因果関係が否定されたり、「治療により改善する余地がある」として症状固定時期が確定しなかったりするなどの理由から、PTSDは後遺障害として認められにくい症状だといえます。
もしPTSDの症状があらわれた場合には、後遺障害等級が認定される可能性を少しでも高めるため、専門家である弁護士のサポートを受けましょう。 -
(2)賠償額を増額できる可能性がある
三種類の慰謝料の算定基準のうち、もっとも高額な基準は裁判所基準です。
しかし、裁判所基準に基づいて計算した慰謝料を保険会社に請求できるのは、弁護士に依頼した場合となります。
つまり、弁護士に依頼することで慰謝料を含む損害賠償の金額を増額できる可能性があるのです。
また、PTSDが後遺障害として認められたとしても、「労働への影響が少ない」として労働能力喪失率が相場よりも低く計算されてしまい、結果として請求できる逸失利益の金額が減少してしまう可能性があります。
適正な労働能力喪失率による逸失利益の支払いを受けるためにも、やはり、保険会社との交渉は弁護士に任せることをおすすめします。
5、まとめ
交通事故により強いショックを受けると、事故後に交通事故の記憶がフラッシュバックすることがあります。
このような症状があらわれた場合には、PTSDの可能性がありますので、早めに病院を受診することが大切です。
通常のケガなどと比べてPTSDは後遺障害等級が認定されづらい症状であるため、交通事故によってPTSDが生じた場合は、専門家である弁護士のサポートを受けましょう。
交通事故の被害に遭われた方は、まずは、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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