交通事故にあった主婦が請求できる、慰謝料や休業損害の計算方法とは

2020年12月04日
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交通事故にあった主婦が請求できる、慰謝料や休業損害の計算方法とは

令和2年の上半期、川越警察署の管内では494件の交通事故が発生し、592名の方が負傷されました。
東京都のベッドタウンでもある川越や所沢では、夫が東京の会社で働き、妻は自宅で主婦業に専念するというご家庭も多いでしょう。また、最近はその逆に、妻が働きに出るご家庭も増えてきているかもしれません。そのため、川越や所沢で発生している交通事故の被害者には、主婦(主夫)の方も多く含まれていると思われます(なお、本コラムでは、単純化するために「主婦」というワードを使っていますが、基本的に「主夫」の方にも同じ考え方が当てはまります)。
交通事故の被害者には、加害者に対して損害賠償を請求する権利があります。損害賠償には様々な項目が含まれており、事故によって負ったケガの治療費や慰謝料のほか、事故によって失われた収入も“休業損害”として請求することができるのです。
パートやアルバイトをしていない専業主婦であっても、普段から行っている家事は“家事労働”とみなされて、休業損害を請求することができます。ただし加害者の加入している保険の種類や、示談交渉を弁護士に依頼するかどうかで、請求できる休業損害の金額は大きく変動することがあります。
本コラムでは、ベリーベスト法律事務所 川越オフィス所属の弁護士が、交通事故の被害者が加害者に請求できる損害賠償の金額や示談交渉の注意点、主婦の休業損害の計算方法などについて解説いたします。

1、交通事故で被害者が請求できる損害賠償の内訳

交通事故の被害者になってケガを負ったり死亡したとき、加害者に対して請求できる損害賠償は、“積極損害”“消極損害”“慰謝料”の三種類に大別することができます。
消極損害は「事故にあわなければ得られていたはずの利益が失われた」という損害ですが、給料や売り上げなどのかたちで収入が発生していない主婦であっても、休業損害に対する賠償を請求することができるのです。

  1. (1)積極損害

    積極損害とは、“交通事故を原因として被害者が実際に支出した費用”のことを指します。積極損害のなかでも一般的なものは、ケガの治療に関係する費用です。
    ケガの治療に関係する費用としては、病院に支払う治療費や診察料のほか、通院する際の交通費や入院する際の部屋代、コルセットやギプスなどの治療器具や介護用ベッドや車イスなどの後遺症によって必要となった福祉用具などの代金、後遺症のリハビリのために利用する施設の料金なども含まれます。

  2. (2)消極損害

    消極損害とは、“交通事故が原因で得られることができなかった、被害者が得られていたはずの収入”のことを指します。主に、“休業損害”と“逸失利益”の二種類があります。
    休業損害は、事故が原因で負ったケガの治療のためにやむを得ず仕事を休んだことによって、会社から支払われる賃金が減らされたり自分で営んでいるお店の売り上げなどが下がったりしたときに生じる損害です。なお、ケガの治療のために有給休暇を使用した場合にも、本来なら他のところで使えていたはずの有給をやむを得ず使用したということで、休業損害を請求できる可能性があります。
    逸失利益とは“失われてしまった、将来の利益”を指します。事故が原因の後遺症によって仕事をするための能力が下がったり、就職や昇進の機会が制限されて将来の収入の金額が減少したりしたときに生じる損害のことです。

    本コラムにおいて強調したいのは、会社に勤めていなかったり店を営んでいたりしておらず、給料や売り上げを得ずに生活している主婦であっても、消極損害に対する賠償を加害者に請求できる可能性があるという点です。主婦が行っている“家事”は“労働”とみなすことができて、金銭に換算した評価をおこなうことができるためです。

  3. (3)慰謝料

    慰謝料とは、“精神的な苦痛”に対する賠償金です。交通事故の場合は、一般的に、“入通院慰謝料”“後遺障害慰謝料”“死亡慰謝料”を請求することができます。
    入通院慰謝料は、事故でケガをしたことによって生じた精神的苦痛に対する賠償金となります。入通院慰謝料の金額は、病院に入院していた期間や、通院した日数などから算出します。
    後遺障害慰謝料は、事故のケガが完治せずに後遺症が残ったことにより生じた精神的苦痛に対する賠償金です。後遺障害慰謝料を請求するためには、後遺症の存在を証明するための書類を審査機関に提出して、“後遺障害等級”を認定してもらう必要があります。後遺障害等級は第1級から第14級までに区分されており、等級が高いほど、請求できる後遺障害慰謝料の金額も高くなるのです。
    死亡慰謝料は、事故により死亡するという究極的な精神的苦痛に対する賠償金です。死亡した方が家族の中でどのような位置であったのか(大黒柱なのか、母なのか、子なのか、一人暮らしなのか等)によって金額が左右されます。

2、休業損害の金額に関わる、三つの基準

休業損害は、“事故によるケガが原因の休業のために得られなかった、収入や売り上げなどの利益”となります。しかし、給与取得者のように収入の減少が把握しやすい場合と異なり、自営業者などの収入の減少が把握しにくい場合は、失われた収入や売り上げがそのまま請求できるとは限りません。その場合、休業損害の金額を算出する際に保険会社の基準をもちいるか弁護士基準をもちいるかによって、請求できる金額が異なってきます。
そして、主婦の“家事労働”を金銭に換算して休業損害を算出する場合にも、保険会社の基準であるか裁判所の基準であるかが関わってくるのです。

  1. (1)自賠責基準

    自賠責保険とは、自動車やバイクを所有している人であれば加入が義務付けられている保険です。原則的に、交通事故の加害者は任意保険に加入していない場合でも自賠責には加入しているため、被害者は最低でも自賠責保険に対して補償を請求することが可能となります。
    ただし、自賠責保険はあくまで最低限度の補償を目的とするために、その補償金額は任意保険や裁判所の基準に比べて低くなります。休業損害に対する補償金額も、原則として1日あたり6100円となり、それを超える場合でも1日あたり1万9000円が上限と定められているのです。

  2. (2)任意保険基準

    自動車やバイクの運転手の大半は、自賠責保険のほかにも損害保険に任意で加入しています。任意保険から支払われる損害補償の金額は保険会社や運転手が加入しているプランによって異なりますが、自賠責基準よりも高額になることが一般的です。休業補償も、1日あたり1万9000円を超えて請求できる可能性があります。

  3. (3)裁判所基準(弁護士基準)

    裁判所基準は、交通事故の損害賠償に関する判例に基づいた基準であり、任意保険基準よりも高額な補償金額になります。裁判所基準の補償金額を請求するためには、基本的に、加害者との示談交渉を弁護士に依頼する必要があります。そのため、裁判所基準は“弁護士基準”とも呼ばれます。

3、主婦の休業損害の計算方法

被害者が給与や売り上げなどのかたちで収入を得ている場合の、自賠責基準と裁判所基準における休業損害額の計算方法は下記の通りになります。なお、任意保険基準による休業損害額の計算方法は保険会社ごとに異なります。

  • 自賠責基準……1日あたり6100円×休業日数


(休業損害証明書などの資料により、損害額が1日あたり6100円を超えることが明らかな場合は、1日あたり1万9000円を上限とした金額を請求できる可能性があります。そのため、給与取得者(いわゆるサラリーマン)の場合には、ほとんどのケースで「6100円を超えることが明らかな場合」と判断されることになります。)

  • 裁判所基準……1日あたりの損害額(日額基礎収入)×休業日数


“休業日数”については、実際に負ったケガの程度や治療内容、治療に要した期間、被害者の職業などを総合的に考慮したうえで決定されます。そのため、休業損害額を計算する際には、“実際に休業した日数”よりも短い日数がもちいられる場合もあるのです。
また、裁判所基準で休業損害を請求する際にもちいる“日額基礎収入”の金額は、下記の方法で算出されます、

  • 給与取得者の場合:事故前3か月間の収入÷90
  • 自営業者などの場合:事故の前年度の収入÷365
    (“前年度の収入”は、確定申告書や課税証明書などに記載された所得額や固定費の額を参考にします)


パートやアルバイトもしていない専業主婦の場合には、休業損害を計算する際に参考にできる“収入”がありません。しかし、先述した通り、主婦の家事も“労働”とみなされて、休業補償を請求することが可能なのです。
裁判所基準における主婦の損害額については、厚生労働省が毎年発表している“賃金構造基本統計調査(賃金センサス)”に記載されている、女性労働者の全年齢平均の賃金に基づいて計算されます。ちなみに、主婦の休業損害の計算に用いられる平成30年の賃金センサス女性学歴計(全年齢)は382万6300円であり、365で割ると日額は1万483円となるため、6100円で計算する自賠責基準よりも大幅に高額であることがお分かりいただけると思います。
休業日数については、給与所得者や自営業者などと同様に、ケガの程度や実際に病院へ通院した日数などに基づいて総合的に判断されることになります。
また、パートやアルバイトをしていて収入を得ている主婦の場合は、その収入が賃金センサスに基づいた金額よりも高ければ、そちらの金額が計算にもちいられます。
なお、後遺症が残った場合に請求できる逸失利益の金額についても、主婦の場合は賃金センサスに基づいて計算をおこなうことになるのです。

4、損害賠償を請求するための手続き

  1. (1)示談

    示談とは、裁判所などを介さずに、トラブルの当事者同士で話し合いをおこなって解決を目指す手続きです。
    ただし、“当事者同士”といっても、交通事故の示談で“加害者と被害者”が直接話し合いをおこなうことはまれです。大半の場合、加害者の代わりに、加害者が加入している任意保険会社の社員が示談交渉を担当するためです。
    保険会社の社員は示談交渉を仕事としておこなっているために、経験が豊富です。そのため、示談交渉の経験がない被害者がひとりで加害者側と交渉をおこなうと、保険会社の社員により加害者側にとって有利な方向に示談交渉を進められるおそれがあります。被害者側の言い分を適切に主張することも難しくなり、実際に起こった損害に釣り合わない金額の損害賠償しか請求できなくなる可能性も高いのです。
    そのため、被害者側の利益にかなう結果を目指すためには、示談交渉は弁護士に依頼したほうがよいでしょう。弁護士は保険会社の社員と同じく示談交渉の経験が豊富であり、法律の専門家でもあります。被害者側の言い分を適切に主張して、交渉を対等に進めることが可能になるのです。また、休業損害や慰謝料などの損害賠償も、任意保険基準よりも高額な裁判所基準で請求することができます。
    原則的に、いちど示談が成立したら、結果に不服があってもあとから変更することはできません。そのため、示談を始める前から充分な準備をおこなって、最善の結果を目指すべきでしょう。また、示談交渉の途中からであっても、示談書(免責調書)にサインする前であれば弁護士に依頼することは可能です。示談交渉中に不安を感じたら、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

  2. (2)調停

    お互いの言い分が対立して、示談がまとまりそうにない場合には、裁判所を利用することになります。ただし、裁判所では“訴訟”以外にも紛争解決の手段が用意されています。そのひとつが、“調停”です。
    裁判は勝ち負けを決める“争い”ですが、調停は、示談と同じく“話し合い”です。ただし、加害者側と被害者側との間に、1名の裁判官と、一般市民から選ばれた2名以上の“調停委員”が介入するところが特徴となります。
    加害者でも被害者でもない第三者が加わることで、お互いの意見の食い違いや利害が客観的な立場から整理されやすくなります。そのため、示談では解決できなかったトラブルも、調停によって解決される場合が多いのです。
    示談と同様、調停が成立してまとめられた結果も、あとから変更することはできません。また、調停が成立したあとに作成される“調停調書”は法的効力を持ち、調停で合意されたはずの賠償金を加害者側が支払わない場合には強制執行を申し立てることも可能となります。
    なお、示談と同じく、調停の場にも弁護士に依頼して同席してもらうことが可能です。

  3. (3)裁判

    第三者が介入する調停であっても、加害者側と被害者側とで意見や利害があまりに食い違う場合には、話し合いが成立しない可能性があります。
    そのような場合には、民事訴訟をおこない、裁判官による判断をあおぐことになります。交通事故の損害賠償をめぐる裁判では、被害者側が原告になって、加害者を被告として訴えることが一般的です。
    裁判官が判断をおこなう際には、客観的な証拠が重要視されます。そのため、交通事故の被害者が民事訴訟を提起する場合には、「交通事故が起こったときの状況」や「事故とケガとの因果関係」、「ケガにより休業が余儀なくされたこと」や「ケガの症状が後遺症となってのこっていること」などを証明する証拠を事前に準備することが重要となります。具体的には、交通事故証明書や診断書、休業損害証明書や後遺障害診断書などです。
    弁護士に依頼すれば、裁判の場においてどのような証拠が重要となるかを判断させて、証拠の入手を代行させることもできます。裁判を開始するための“提起”や裁判の場における立証手続きも、被害者が個人でおこなうことは難しい場合も多く、通常は弁護士が代行することになります。
    また、裁判においては裁判官から“和解”を勧告される場合があります。このときに作成される“和解調書”は調停調書と同様に判決と同じ法的効力を持ち、もし加害者が賠償金を支払わない場合には強制執行を申し立てることが可能です。

5、交通事故の被害者が早い段階で弁護士に相談するべき理由

先述した通り、交通事故の損害賠償額の算定基準のうち、もっとも高額な裁判所基準で請求するためには弁護士に示談交渉を依頼することが原則となります。
特に、被害者が主婦である場合には、休業日数の決定方法や休業損害額の計算が特殊になります。弁護士に依頼した場合とそうでない場合とで、得られる休業損害額の金額が大幅に異なる可能性もあるのです。
弁護士への相談は示談交渉の途中からでもおこなえますが、早い段階から交渉を任せることで交渉を有利に進めることができ、多くの損害賠償額を得られる可能性が高まります。また、示談や調停がまとまらずに裁判をすることになった場合でも、裁判の提起や立証手続きなどは弁護士に依頼することが一般的です。裁判において必要となる各種の証拠も、早い段階から準備をおこなうことが重要になります。事故から日数が経過しすぎた状態で証拠集めをおこなおうとすると、事故当時の状況を再現するための証拠が得られなくなったり、事故とケガや後遺症との因果関係を証明することが難しくなったりするおそれがあるためです。
そのため、交通事故の被害にあわれたら、今後の示談交渉や裁判の可能性を見すえて、できるだけ早い段階から弁護士に相談することをおすすめします。

6、まとめ

専業主婦の方が交通事故の被害者になられると、「家事に支障が出て家族にも迷惑をかけてしまっているのに、その点については何の補償もないのだろうか・・・」と不安を抱かれることでしょう。
適切な金額の損害賠償を請求するためには、早めの段階から弁護士に相談して、示談交渉に同席させたり裁判を見すえた証拠を集めたりすることが重要となります。
交通事故の被害者になられて損害賠償の請求が不安な方は、ベリーベスト法律事務所 川越オフィスまでご相談ください。交通事故の示談交渉や裁判の経験が豊富な弁護士が、ご相談をお受けいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています